第33話 やっぱり姉はお金の生る木だった

 宥子ひろこと一緒に基礎化粧品の売り込みに来ました!

 と言っても、誰も相手にしてくれません。そうだよねぇ、値段が高いもの。

 臭い魔物の油で作った石鹸で顔を洗って終わりだからねぇ。あんな石鹸の何処が良いんだか?汚れ落ちる処か塗りたくってんじゃん。

 そこで宥子ひろこが提案したのが、日本の売り方!THEテスター&モニターでっす。

 宥子ひろこは私を連れて早速、全員で冒険者ギルドに行ってきました。

 今日は、綺麗なお姉さんのところらしいです。何故???

 宥子ひろこ曰く正直、綺麗なお姉さんは顔だけで仕事しない屑っぷりだが広告になるからだそうな。

 「済みません。依頼を出したいのですが、冒険者でも依頼は出せるんですか?」

 「お金を払って頂ければ可能です。依頼内容の記載をお願いします。」

 宥子ひろこは渡された粗悪品の紙とペンに顔をしかめ全ての項目にペンで記載していった。

 「依頼内容は……基礎化粧品・石鹸・シャンプー・リンスの1ヵ月使用。その間の感想や肌の状態の確認。報酬はなし。ただし渡した商品は無料で提供とする、ですか。」

 何だそりゃって顔してるよ。化粧の部分でちょっと興味がわいてきたみたいな?

 「実は、肌や髪にお悩みの方のために研究して作っていたものがありまして。それが出来たので、被験者を募りたいと思っています。私は薬師ギルドにも所属しておりCランクです。実際、使って頂きたいのがこちらです。」

 基礎化粧品一式(化粧水・乳液・美容液)・石鹸・シャンプー・リンスのセットをカウンターの上に置いた。

 「募集人数は10名。出来れば、ギルド職員の方が好ましいです。」

 「少し触っても良いでしょうか?」

 シンプルなガラス瓶だが、底に太陽と星を囲むように月が描かれ、真ん中に容子まさこと透かし彫りされて隠れお洒落風になっている。

 蓋を開けて臭いを嗅いだり、鑑定したりしている。

 「もし良ければ、実際に使ってみてはどうでしょう。そちらはサンプルなので、貴女に差し上げます。場所があれば使い方をレクチャーしますよ。」

 宥子ひろこの営業スマイルで云うと、少し躊躇った後、彼女は頷いた。

 「少しお待ち下さい。別の者と交代します。」

 美人さんがフツメン嬢と交代し、私達は美人さんに連れられるままギルドの宿舎区へと移動した。

 「出来れば、洗顔できるところと髪を洗えるところが良いですね。」

 「でしたら浴場があるので、そこへ行きましょう。」

 浴場は清掃中の札が掛かっていたが、そのまま中に入った。

 銭湯よりもバリエーションは少ないが、浴槽が二つほどあった。

 掃除しているおばちゃんに、直ぐお湯が使えるか聞くと使えないのこと。宥子ひろこにお湯を作れと命令された。

 ハイハイ、やりますよ。睨まなくてもちゃんとやるってば。

 「では、髪の毛から洗いましょうか。」

 メディションホールからフードが取り外し可能なポンチョ型の合羽(かっぱ)を着て貰い、簡易の椅子を4つ並べて寝て貰う。

 頭だけが、飛び出ている状態だ。

 首にはビニール袋に入れたエア枕を挿入しているので問題なし。

 「容子まさこ、桶にお湯を張ってくれ。」

 「りょ」

 私も宥子ひろこと同じく全身が合羽(かっぱ)で覆われて、素足の状態だ。

 宥子ひろこは美人さんの顔に手ぬぐいを掛けて、準備の整ったお湯を、

 「じゃあ、掛けますね~」

と返事を聞かずにザパーッと生え際から掛けた。後頭部は、私が持ち上げている桶に髪を浸し、ザブザブ付けて手で揉み洗い。因みにこの段階でシャンプーは付けいない。

 宥子ひろこの頭皮マッサージ&汚れを落としは見てて気持ちよさそう。

 私もして貰いたいなぁ。

 濯ぎが終わると、シャンプーを手に垂らし泡立てて髪に擦りつける。

 しかし、汚れが酷いのか泡立たない!洗って濯いでを3回繰り返して、4回目で泡立ちました!

 この世界の人って汚れレベルが高いんじゃね??と思った私は悪くない。

 濯ぎ終えた後、軽く髪の水気を飛ばして宥子ひろこはリンスを適量取り髪に塗り込んでいく。

 シャンプーだけだと髪がパサつくのでお勧めはしません。髪が痛むからね!

 リンスが髪に浸透するまで時間があるので、使い捨てのビニールキャップを頭に被せ、水滴が垂れないように顔に掛けていた手ぬぐいを首元に巻き直した。

 「リンスの成分が髪に浸透するまでの間に、基礎化粧品の使い方をお教えしますね!」

 気持ち良かったのか、美人さんの表情がホワッと緩んでいる。掴みは上々かな。

 「このネットで石鹸を擦ってみて下さい。ふわふわに泡立ちます。それを搾り取って、泡の塊が出来ます。触ってみて下さい。」

 真っ白な泡の塊を差し出すと、美人さんは恐る恐る泡に触れて感動したように叫んだ。

 「何これ!凄く弾力がある。しかも、フワフワで良い匂いだわ。」

 そりゃ、宥子ひろこの力作だからなぁー。

 「顔に万遍なく塗って、人差し指と中指でマッサージするようにくるくる回して洗います。擦っちゃダメですよ!優しく撫でて下さい。おでこ・鼻・顎は、肌トラブルの多い場所なので念入りに洗って下さいね。10~30秒ほど洗ったら、冷水で泡を落とします。落とし漏れないように念入りにお願いします。」

 予め私が氷水を用意して待っており、氷を取り除いた水の部分だけを使って洗い流してもらう。3桶くらい使ったかな。綺麗に落ちました。

 「この布で軽く水滴をふき取るようにして下さい。ゴシゴシ擦ると皴の元になりますからね。」

 宥子ひろこの言葉におっかなびっくりした様子で水をふき取る美人さん。よほど皺が嫌なんだね。

 「一番大きな瓶を手に取って金貨くらいの大きさを出して顔に塗る事10回繰り返します。浸透するように顔を手で覆うように塗ってみて下さい。次に中くらいの瓶を手に取って親指の爪位の大きさを出して、顔全体に塗ります。その時は、中指と人差し指を使って洗顔同様マッサージする要領でお願いします。最後に、一番小さな瓶を手に取って小指の爪位の大きさで中身を出して下さい。これは、気になる部分……目元や口元などに塗ると良いですよ。」

 基礎化粧品の一通りの使い方を終えたので、また椅子の上に寝転がって貰い使い捨てにビニールキャップを回収した後、お湯で洗い流した。

 髪を絞り、水気をフカフカのタオル(300円ショップで購入したもの)で水気を吸い取っていく。パンパンと叩くように水気を吸い取り、最後は軽くゴシゴシと拭いて終わり。

 「じゃあ、乾燥させますね。」

 火と風魔法で温風を作り水滴を飛ばした。その時、私の顔面に水滴が飛んだ。宥子ひろこよ、覚えとけよ……と水滴が飛んだ時、思いっきり睨らんだが無視しやがった!

 綺麗に乾いたので、宥子ひろこは椿油がたっぷりしみ込んだ愛用の櫛で髪をとかすと、まあなんてことでしょう!

 綺麗な艶髪に大変身。最後にcleaning清掃をかけて終了。

 「如何でしょう?肌も明るくなり口紅だけでも十分美しいと思いますよ。」

 鏡を手渡しうっとりとしている美人さんに、宥子ひろこは歯に浮くようなセリフをベラベラ喋る。

 「これは良いですね。癖になりそうです。洗顔後の肌のつっぱりもないし、あの嫌な臭いもしない。泡立ちも凄く良いです。化粧水・乳液・美容液というものを付けただけで、肌の張りが違います。」

 そうだろう。そうだろう。それは、宥子ひろこの力作ですから。調合Ⅹと現代科学の力の結集です(笑)

 「これを売り出したいのですが、実際効果があると知らしめるために試して頂ける方を募集したいのです。分かって頂けたでしょうか?」

 畳みかけるように話すと、コクコクと頭を縦に激しく振っている。

 うん、効果があり過ぎたみたいだ。

 「先程、出来ればギルド職員でと仰ってましたよね?」

 「はい、受付して下さる方で女性であれば年齢は問いませんし、その方が尚良いです。」

 美人さんの眼がギラギラ光って怖い。宥子ひろこが、蛇に睨まれたカエル状態になっててウケル。

 「お任せ下さい!その受注、この私アイリーン・キャーシーが承りました!!お任せ下さい。必ずやこれらの商品を広めてみせます。」

 あれだけの物を見せつけられ体感したら、そうなるわなぁ。

 いきなりやる気だした美人さんもといアイリーンさん、普段もこれ位やる気を出してくれると宥子ひろこも雑に扱わないと思うぞ。

 基本、宥子ひろこは自分の仕事をしない奴が大嫌いだからな。

 そして私も、仕事を押し付ける奴が大嫌いだ。

 「あの、その代わり成功した暁には優先的に新作の試作品を私に回して頂けないでしょうか?」

 「口紅や白粉などの化粧品の製作にも力を入れておりますので、新作が出来た場合は是非こちらからお願いしたいと思います。人によって合う合わないがありますので、肌に何かしらの問題が出た場合は、即刻中止をお願いします。被験者は、アイリーンさんが厳選して頂けるという事で間違いありませんか?」

 「はい!わたくしが、責任を持って厳選しますのでご安心下さい。」

 きっと宥子ひろこは言質は取ったぜ!!と被験者確保は安泰だなどと思ってるんだろう。横でニヤニヤと笑うのは止めて欲しい。

 「では、戻りましょうか。」

 「先にお戻り頂けますか?わたくしは、化粧をしてから戻ります。」

 まあ、すっぴんだしね。一応、受付嬢という肩書で仕事している身なら身だしなみは大切だと思うだろう。

 「分かりました。先に戻らせて頂きます。」

 宥子ひろこが私に目くばせして、受付の場所まで戻ることにした。

 「鴨がネギを背負って歩いてきたね!これで、化粧品関連の被験者を確保が約束されたってことだ。稼ぐぞー!!」

 「私達も使っているけど、昔より肌の調子が良いしね。化粧品も作って、独自のブランドを立ち上げて日本でお金を稼ぐのもありかもよ?」

「おお! 良いねぇ。入れ物は、私がデザインして中身は宥子ひろこが作る。品質は折り紙付きだから受注数が増えるね♪作れる数にも限りがあるから、希少性も出てブランド化が一気に進みそう。宥子ひろこがお金の生る木に見えるわぁ」

と、うっとりとした目で宥子ひろこを見た。

 本当に宥子ひろこが黄金の木に見えるよ。だから私は

 「これから馬車馬のように働いてね!」

 「嫌でござる!!!」

 「働け」

 宥子ひろこの胸倉掴み愛の往復ビンタしてあげました。



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