第31話 金の生る姉

 宥子ひろこがポーションの量産から帰って来ない。

 予定の時刻よりも大分遅れていることに皆苛々してきている。お腹減ったもんね。

 そうして三時間が経過した頃にやっと宥子ひろこが帰ってきた。遅い!!予定より三時間もオーバーしている。ティムチーム全員でブーイングのお迎えだ!!

 「本当にゴメンって!中級ポーションのスクロールを1つ買うのに金貨100枚って言われたから、肉体労働して来たんだよ~」

 「スクロールはタダで貰えたの?」

 「それは無い!でも値切った。金貨70枚で手打ちにして貰ったわ。」

 「3割引きか~。どうせなら半額にして貰って欲しかった」

 「私も言ったけど、却下されたから仕方がなく3割引きで手を打ったの。取り敢えず、家に帰ってゆっくりしたい」

 スクロールって結構高いんだな。上級だとどれだけ吹っ掛けられるのか、心配でもある。

 <賛成!約束の魔王の誘いを出して貰わんと夜も眠れんわ>

 赤白せきはくちゃん達が、念話を飛ばしてきた。

 <わしも飲みたい!つまみは、塩ウニやで>

 <サクラは~マシュマロっていうのがもう一度食べたいのですぅ>

 お前等、ほんまにフリーダムやね。てかサクラちゃん宥子ひろこにバラしたらあかんやからん!!

 「……サクラ、マシュマロって言った?」

 <はい!ふわふわして美味しかったのです~>

 ほわわんとした物言いで、食べた時の情景を思い出しているサクラちゃん。宥子ひろこちゃんに言ったらバレるや~ん、てかバレた。

 「容子まさこさぁん、どういうことかしら?説明してくれるわよねぇ?」

 ギギギッと首を動かす私を睨みつける宥子ひろこ。サッと目を反らしながら言い訳した。

 「いや、宥子ひろこの帰りが遅いし。私達もお腹が空いたから、ちょっと間食を……」

 鬼の形相の宥子ひろこ

 「帰ったら、食べさせたものをリスト化してメールして。食事管理がグチャグチャになるから、無暗やたら食べさせないでよ。」

グチグチネチネチ文句を言ってきた。

 「はいはい、悪かったわよ。」

 そんなに怒らくなても良いじゃん。ぶー垂れた顔で謝る私に宥子ひろこは脳天にチョップをかまし、メディションホールから自宅を出して帰宅した。

 私は早速夕飯のハンバーグを作り始めた。後ろで発泡酒片手にアイテム整理をする宥子ひろこ。傍らで蟒蛇2匹が大吟醸『魔王の誘い』を飲んで酔い潰れている。

 この酒好きは宥子ひろこに似たんだろうな。

 「私がドロップしたのしかないなぁ。容子まさこぁ~、モンスター狩りしなかったの?」

 「メディションホールに籠って装備品の服を作ってた。帰りも遭遇しなかったよ。」

 本当に一匹も遭遇してないのだと告げれば宥子ひろこがヒスった。

 「Why!?何ですとー!!!私ばっかりボスキャラに遭遇したんだけど。遭遇率高すぎて隠密と索敵のスキルレベル30まで上げたのに、それでも遭遇したんだよ!! 何で容子まさこは遭遇しないんだよ」

 バンバンッと机を叩きながら泣き言を漏らす宥子ひろこ

 「索敵と隠密のスキルレベル30に上げたってどういうこと?ポイント貯めている時に何で使っちゃうのかなぁ」

 怒りの余りお玉をギチギチに握りしめながら、ニッコリと微笑みを浮かべ宥子ひろこに詰め寄る。

 メキョっと音がしたが気にしないで宥子ひろこを睨んだ。

 「あ、いや……その済みません。始まりの町で買ったポーションは、そんなに持ってなくて。ボス戦を連戦出来る自信がなくて上げました。勝手に使ってごめんなさい。後、調合スキルもⅡからⅩにしてます」

 宥子ひろこは降参とばかりにその場で土下座した。

 「索敵と隠密は分かるけど、何で調合スキルまであげたん?」

 「中級ポーションの失敗を減らすためと、基礎化粧品のを良品にするためです。化粧品は結構良くできたよ」

 ご飯だというのにサンプルとしてテーブルの上に乗せた宥子ひろこ

 「ご飯食べてからにして!」

と怒る。

 取り合えず私達は出来上がったご飯を黙々と食べる事となった。






 食休みに緑茶を啜りながら、宥子ひろこが作成した品々をテーブルの上に置いた。

 「調合スキルが上がった事で、ちゃんと中級ポーションも作れたし化粧品の質も良くなったよ」

 正直胡散臭せぇと思う私は鑑定を発動した。極が混じっていることに気付き私は、宥子ひろこを大層褒めたたえた。

 「凄いじゃん!特に基礎化粧品は、(極)も混じってるし。これは、高値で売れるんじゃない?」

 「卸すのは商業ギルドになると思うけど、このレシピを薬師ギルドに売るか迷っているんだよね。薬師ギルドに売れば特許料が毎年振り込まれるんだけど、どう思う?」

 何を言ってるんだ?宥子ひろこよ、レシピを売ったら独占出来なくなるじゃん。

 「何馬鹿な事言ってんの! 教えないよ。美容の魔法薬で売り出すんだから。人に教えたら意味無いじゃん」

 K国やC国みたいにまんまパクリがいるんだから!あと宥子ひろこが勝手にポイント使ったんだから同じ分だけ使わせて貰う!

 「私も細工と鍛冶スキル上げて、凝ったアクセサリー作りたい!同じようにスキルレベル30まで上げて」

 宥子ひろこは勝手にポイントを相談なしに使った事に対し、後ろめたさがあるようで

 「分かったよ」

すんなりと了承した。

 私のスキルが上がったので

 「ひゃほーい!これで魔石(大)の加工に着手出来るぜ」

本音がペロっと出てしまった。

 「おいっ!」

 宥子ひろこがベシッと尻を蹴飛ばし突っ込みを入れた。痛いんだが……

 「痛たた。蹴らなんでも良いじゃん」

 ブーブーと文句を言うと

 「魔石加工するためだけに、スキルレベル上げたんかよ。」

当たり前の事を聞いてきたので

 「そうだよ?今はまだダイヤモンドカットまでの技術はないけど、研磨技術は上がって来てると思うんだ。ハート&キューピットのダイアモンドカットが出来るようになれば、今よりもっと出来の良いアクセサリーが作れるし。この世界でも、アクセサリー作家として成功出来ること間違いなし!それに、良いものには付与魔法もやり易くなるんだから」

肯定したら宥子ひろこはガックリと肩を落とした。

 「そ・れ・に!化粧品を売り込むときに綺麗な硝子細工の入れ物に入っていたらテンションあがるでしょう。今は既製品だけど、次からは容子まさこ印の入れ物を使って売れば良いじゃない。誰にも真似されないように仕掛けておくから」

 私の並々ならぬ説得の前に宥子ひろこは完全降伏を宣言した。

 「……もう良いよ。好きにして。化粧品の作成方法は売らないけど、私が作る。この方針で良い?」

 「OK~OK~!」

 宥子ひろこが作ればタダだし、極も作れるんだからお金がいっぱいになるのも夢じゃない!これで老後も安泰だ。

 ただ、後で化粧水などを幾らで卸すか、デザインとかで宥子ひろこと協議という名の喧嘩が勃発するのであった。

 「そうだ、これあげる。」

 楽白らくはくの糸で作ったニットの上下を渡すと宥子ひろこは鑑定して固まった。

 物防3000、魔防5000、小回復と表示されている服に宥子ひろこ

 「これ売るわよ!お金になるっ!!」

売り払おうと外に出かけようとしたので回し蹴りを食らわせて止めた。

 「前回作った防具よりも性能は落ちるけど小回復が付いてるんだよ!装備だって充実してないのに軽々しく売るって言うな!この馬鹿っ!!」

 「だって!これだけの性能だよ!ちょっと露出が高いかなって思うけど売れると思うんだ!」

 「もっと性能が良くなったのを売ってくれよ。それにこれは楽白らくはくとお揃いなんだよっ!!」

 私の訴えに

 「そうなの?楽白らくはくちゃん、何処にいるの♡」

楽白らくはくを探し出した。お揃いにしてるといえば、もう着てるんだと思っている辺りお花畑である。まぁ、完成したら着せたので宥子ひろこの行動は強ち間違いではないけれど。

 ひょこっと私のフードから楽白らくはくが姿を見せると宥子ひろこの目が♡になって奇声を上げた。

 「んっぎゃー---めっちゃ可愛い♡ハアハハアアハハアハっ可愛いよ、楽白らくはくちゃん!!」

 ジリジリと滲み寄ってくる宥子ひろこの頭をハリセンでしばく。スパーンと良い音が鳴った。

 「私の頭は除夜の鐘やないんだぞ!!何すんねんブスぅうう!!」

 涙目の宥子ひろこ

 「楽白らくはくが怯えるから止めれ。」

私の髪をヒシっと離さず震えている楽白らくはくを見て宥子ひろこは落ち着いたようだ。

 「ごめん。あまりにも可愛くて。」

 「売るのは防具が充実して手が空いた時に量産するか考えようや。今は無理だからね。」

 宥子ひろこの手にニットの上下を手渡して釘を刺しておくのであった。

 

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