第25話
そのぐらいからかなあ、うちがお父さんを意識し始めたんは。
初めは、お父さん可哀想ていう気持ちだけやったけど、心がよそ向いてるお母さんに必死になってる姿を、うちが何とかしてあげられへんかな、思うようになっていったん。
そしたらある時、うちが五年生ぐらいの時かな、お父さんが目ぇを細めてうちをじっと見つめたことあって。
『冴子もだんだんお母さんに似てきたなぁ、そのうちお母さんみたいに綺麗になるぞ』
て。嬉しかったんと同時に、閃いたん。
それまでは、お母さんが綺麗やさかいお父さんが夢中になるんも仕方ない、うちにはとても適わん、思てたのに、お母さんに似てきたいうことはうちにも可能性あるんや! て。
お母さん、思い切ったことは何もせえへんかったけど、時々その人と会うてたみたい。そんな日ぃは朝から妙に艶っぽうてそわそわしてたから。
で、それは必ずお父さんが講演会とかで家におらん日ぃ。
せやからうち、学校行くふりしてお母さんの後つけて行ったことあるん。
結果はクロ、多分クロや。
離れたとこからで、後ろ姿しか見てないけど背ぇの高い、ええ身なりの男の人やった。
あれがうちのほんまのお父さんなんか思たけど、怖あてよう見ぃひんかった。
とにかくショックやった。まさか、思う気持ちがどっかにあったんやろうなあ。
お母さんに裏切られたショックで泣いたわ。そんで同時にお父さんのこと思た。
うちがお父さん好みの女になって慰めてあげるのや、て誓うたん。
うち、お母さんのことは好きやったの。
綺麗やし優しいし、一人の女性として素敵なものいっぱい持ってるし。憧れてた。
せやけど時々チラ見えする女の部分みたいなんは嫌やった。
お母さんとしては見せてるつもりはないんかもわからんけど。
お父さん、家を空ける前の晩とか、お母さんのこと一晩中離さへんの。
夜中、うちがトイレに起きた時とかドアの向こうからお母さんの切ない声が聞こえてくるんよ! そんなん聞きたい?
初めて聞いた時うちはぞっとして、慌てて自分の部屋へ戻ってドアに鍵もして頭から布団被ったわ。
ほんで次の朝にはお父さん出かけて行くんやけど、お母さんはだいたい色っぽくやつれてんねん。綺麗やねんけど、あの人ともそういうことしはるんやろか思たら、軽蔑したなって。
お父さんが可哀想でたまらんくなるん。
うちが早う大きなって、お母さんみたいに綺麗になって……てその都度思てた。
だんだんその気持ちが強なっていった。
そしたらそれに反比例するみたいに、友達と居てるんがものすごう辛なってきて。他の子ぉらは同級生の誰が好きとか屈託もなく言うてるのにうちは……て。友達といればいるほど自分の背負てるもんの大きさを思い知るん。そして怖なるの。
やけどもう気持ちは止まらんとこまで行ってたし、うちがお父さんを守るんやいうのがうちを支えてたんも事実やったからもう仕方ない。
女子校やったら多少はマシか思て星群に入ったけど、一緒やったなあ。彼氏がどうのこうの言うてるもんね、みんな。
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