第23話
その後もうちらの関係性は特に何も変わらへんかった思います。
うちに限って言うたら、受け止めてもらえたんやいう余裕からか至近距離に顔が寄っても、あの子の体臭を感じても、以前みたいに慌てることはなくなったかな。
ドキッとしたしクラッときたけどそれすらも楽しめるようになってた思います。
せやけど冴子の方は……。
うちに対してどうのと違て、ね。
お父さんに対する思いに、色々と葛藤があったんやろねえ……。
冬休みにまた冴子の家に遊びに行かして貰た時、うちは以前とは違う目ぇでお父さんを見たわ。ああ、この人のことを冴子はなぁ、いう目ぇで。
冴子もうちのそんな目ぇに気ついたんか、なんや照れくさそうにしてたけど、
「うちのこの気持ちいうんは思春期の女子にありがちな、恋に恋していうんとは違うんよ。クラスの子ぉらは彼氏欲しいとか言うてるけど、そんな性欲がベースの気持ちとは別もんなんよ、うちのは」
て嘯いてるぐらいやったから、上手いことバランス取って落ち着いてるもんやとばっかりうちは思てたのに……。
うちはあの子の心を何も分かってやれてなかったんです。
二月の寒い日ぃやった。連休の初日。
家の電話が鳴って、うちが出たんです。そしたら受話器の向こうからかすかに聞こえてきたんが、すすり泣く声やったの、冴子がすすり泣く声!
「冴子!? どないしたん!?」
言うたら、
「お……お母さん、出て行ってしもた……うちのせい……お父さんも追いかけて行ってしもた」
涙に飲まれそうになりながらそない言うんです。
どこから電話してるんか聞いたら、いつもうちと会う公園の公衆電話からや言うから、
「すぐ行くから待ってて」
冴子は公園のベンチで呆けたみたいに座ってた。うちは急いで行ったつもりとはいえ、電車に乗らんとあかん距離。その間、あの子はあの寒空の下、アホみたいな薄着でそこに居てたんです、身体は冷え切ってました。
「お母さん、駆け落ちしたん……うちがそれをお父さんに言うたら、お父さん、追いかけて行ってしもて……」
うちを見るなりあの子は泣いて泣いて……。うちの袖口掴む手は氷みたいやったわ。
とりあえず冴子を落ち着かすことが先決や思て、あの子の家へ一緒に行きました。
「うちが悪いんや、うちが……」
初めのうち冴子はすっかり取り乱して、うちにはなんのことか把握しかねてたけど、熱い紅茶入れてしてるうちに、あの子もだんだん落ち着いていって、腫れた目ぇして、ぽつぽつ話始めてくれたわ。
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