第22話
あの子のその寂しげな自嘲に対して、何をどう言うてええか分からんで俯いてたら、
「せやけど、あの人はうちの本当の父親と違うんよ」
て言うから、うちは思わず顔を上げたわ。そしたらあの子、ちょっとは安心したんやろか、さっきよりももうちょい自然な笑顔をしたわ。
「ほんとのお父さんと違う、てどういうこと? あのお父さん、冴子のお父さん違うん?」
「うちの本当の父親いう人は、お母さんの結婚前の恋人やねん。今のお父さん、お母さんに横恋慕して、お金でお母さんを買うたみたいなもんやねん。お腹にうちがおるのも知らんと。まあお母さん自身も気づいてないぐらいの時やったんかもわからへんけどな、その事で揉めた事もないみたいやし」
「へえ……」
うちは他に言葉が見つかりませんでした。自分に置き換えて考えてみた時、例え血の繋がりがなかったとしても、生まれた時から親として見てた人には、そないな気持ちにはなれへんな思たんですよね、はっきり言うて。
「……ほんで、冴子はどうするつもりなん?」
全くトンチンカンな質問をしてしもたわ。そんだけ唖然としてたんやろねえ。
「どうするて、どうもせえへんよ」
冴子は静かやけど達観した口調やったわ。迷いがないいうか。
「どないも出来へんやん? いずみちゃんかて、うちのこと想てくれてるみたいやけどせやからってどうするつもりなん?」
「……どうもせえへん」
図星を突かれてうちはうっと詰まったわ。
せやねん、あの子のことが好きやからて、だからどうしたいんや聞かれると答えられへんのです。
近くにいたいいう気持ちはあっても、具体的にどうしたいとかは明確な青写真が見えないんですよね。出来る出来ない別にしても、結婚いうのも何かしっくり感じぃひんかったしねぇ。
「な? そうやろ?」
冴子は寂しそうな中にちょっとだけ元気を取り戻したみたいに笑たわ。
「うちもいずみちゃんもおんなじや。好きやけどどうにも出来へんし、どうにかする必要もないねんな。そんなことせんでも近くにいられるんやもん」
あの子の言うのんを聞いて、うち、なんや肩の荷が降りたような脱力感に見舞われたわ。
うちの気持ちを受け入れてもらえたんかどうかはよう分からんかったけど、とりあえず拒絶とか軽蔑とかはされへんかったし、なんちゅうか、安心してこの気持ちを持っててええんや、ていう保障みたいなんを貰たような気分。
「そっか……」
言うてうちはまた冴子と並んでベンチに腰を下ろしました。冴子はどっと緊張感が解けたうちのことを、ふふ、て笑て見てました。
「あっついなあ、何か飲もか」
どっちからともなくそういう意見が出て、公園に設置してあった自販機で冷たい飲みもん買うてから、仕切り直しの乾杯みたいなんをしました。
飲みながらいつものように喋りましたよね。ほんま、悩んでたんがアホらしなるような何でも無さでした。
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