第19話

 そんな調子やさかい、その晩はほとんど眠れませんでしたよ。


 あの子に背中向けて横になって、頭からタオルケットをかぶってぎゅうっと目ぇ瞑ったけど、切ないのんはちっとも良うならんと、後から後から涙が溢れて止まりませんでした。


 冴子に聞かれたらあかんよって、声を押し殺してから喉も痛なって、そら苦しかったわ。


 やっとウトウト出来たんは明け方になってからやったわ。夏の朝は早いさかい、焦ったんを覚えてる……。


 お泊りは一泊の予定やったから、その日ぃのお昼にはもう自分の家へ帰ったわけやけど……。


 どないにして帰ってきたんか記憶がないの。それよりも、その日ぃの午前中、冴子の家でどないしてたんかもあやふやなんです。


 ぼーっとして元気ないのを冴子たちに悟られんように気ぃ張ってた記憶はあるんですけど、具体的に何をどうして過ごしたんやら。


 ほら見て下さい、この日ぃの日記。


『7/26~27 冴子の家』


 とだけ。あとは何も。何か書こうとしてた様子だけは何となく見受けられるけど……。


 そんだけ動揺してたんや思います。


 その後、夏休みの間にあの子から何回か電話もありました。

 会おう、みたいなことを言われたけどうちはその度に適当なこと言うて断ってました。


 冷却期間を作りたかったんよ。

 頭を冷やしたかったの、自分のね。


 女の子に対してこないな気持ちになるいうのが、自分の中で上手に折り合いをよう付けんといてたし。好きになるのは男の子に決まってる、とまだ頑なに信じてたから。良いとか悪いとかやなしに、うちは女なんやから男の子を好きになるもんなんや、てね。


 九月になってまた学校が始まった初日、うちの机に冴子からの手紙が入ってた。


『放課後、公園で待ってるね。家族旅行のお土産も渡したいです』


 てあったわ。


 夏休み中、結局うちの冷却期間はあんまり上手いこと行かへんかったようなんです。


 自分ではだいぶ落ち着いた思たけど、こないな手紙渡されたらまた……心乱れるいうのはまさにこういうことを言うんやな、て痛感したわ。胸がきゅーっとなってね。


 この手紙によって、寝た子を起こされたようになって、それまでやったら学校で素っ気ない冴子を怨めしい気持ちで見てたけど、この時ばっかりは助かりましたよね。


 仮にあの子が愛想良うても、うちがあの子を避けてしもてた思いますもん。


 そんなわけで学校では表面的にはいつもとおんなじように過ごせてたわけやけど、問題は放課後よなあ。今日は学校がずっと終わらへんかったらええのにて願ってたけど、そうも行かず。ましてや学期の初日て早うに終わりますでしょ。


 冴子にどないな顔して会うたらええのか、ほんとに刑執行までのカウントダウンみたいな心境でした。


 え? あ、そうやねん。行かへんいう選択肢はなかったんよね。あの子に会いたくないのとは違たし、仲違いもイヤやったんでね……。


 


 

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