第18話
話も一応盛り上がったし指切りもしたしで、なんや一段落したみたいな空気になったんよね。ちょっとの間、うちも冴子もどっちも物を言わへん時間が流れました。沈黙を共有してた言うたらぴったりかな。
「……そろそろ寝よか」
やがて冴子の言葉を合図に、おやすみー、言うて、またそれぞれがそれぞれの沈黙に入った頃、
「……いずみちゃん、まだ起きてる?」
あの子がいたずらそうな声でそうっとつぶやきました。これも友達とお泊りあるあるちゃいます?
「……うん、起きてる」
うちもおんなじようなトーンで白状しました。
内心、面白がってよね、うちも。
「あのさぁ……いずみちゃんて、好きな人おる?」
冴子がそないなことをいきなり言うて来たから、うちはドキーッとしました。頭の中、真っ白になりましたよ。ものそう、核心突かれた感覚ね。
うちの心を見透かして言うてるんちゃうか思いました。
冴子の口調は女の子にありがちなミーハーっぽい感じやったけど、それはもしかしたら本題を誤魔化すオブラートなような気が、せんでもありませんでした。
言葉につまって、うちは思わず口をつぐんでしもたけど、暗い中でも空気て察せますやん?
冴子は納得したみたいに自分で答を出してきました。
「……特におらんかな、まあそうやんなあ、うちら女子校やもんな」
そう言うてから軽くアハハと笑うて、
「じゃあほんまにオヤスミナサイなー」
て、今度はほんまに静かになりました。間もなくして、ゆっくりした寝息が聞こえてきました。
せやけど、うちはちっとも寝れんと、むしろ余計に目ぇ覚めたわ。なんや、おいてけぼりになったような気分やった。
肘で支えるように上半身だけ起こして冴子を見たわ。もう目ぇが慣れてたから、暗がりの中でも何とのうはあの子の顔も分かりました。
無防備な、相変わらずの綺麗な顔やった。
その顔に答を求めるみたいに、うちは自分の気持ちを探ってたわ。
やっぱりこの気持ちは恋言うもんなんやろか。うちは冴子のことを特別に好きなんやなあ……。
こないな寝込みを襲いたい、とかはなかったけど、ずーっと冴子の側におりたいいう、独占欲は発動してましたからね。
やっぱり好きなんやと認めざるを得ませんでした。
あ、襲いかかるいうんはピンと来えへんかったけど、静かに寝息立ててるあの子を見てたら、ほっぺたに触れてみたいとは思いました。
せやけどそないなことして冴子の目ぇが覚めた時に言い逃れが出来ひん思て、やめたんです。そないな勇気はなかったわ。
今やったら同性同士もありやろ、と普通に思いますけど、あの時分はそんな風に考えられたことは皆無で、女の身で女の子を好きになってしもたやなんて、落ち込むしかなかったわ。希望があるかもなんて、思いもしてなかったから!
で、この先、高校も終わって大学も出て、冴子は男の人の恋人が出来て結婚していくんやろなあ……男の人に取られるんやなあ……ていうなことを考えだしたら、うち、もう切のうて切のうてどうしようもなくなって。
うちと冴子は、決して交わることのない平行線をずっと走ってるんや思うたら……虚無感のすごいのんが来たわ……。
かと言うて何とかなる手立てがあるわけでなし。
そうやってしばらくの間、布団の上で途方に暮れてるより他ありませんでした。
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