第17話
修学旅行なんかでもそうやけど、友達とお泊りするて、なんであないにわくわくするんやろね?
夜は、花火の時に行灯みたいなランプ置いてた座敷に、冴子と二人布団敷いて寝ることになりました。
二人できゃーきゃー言いながら枕にカバーかけたり、シーツ敷いたりしてね。
この時の冴子は花火の時のギラギラした感じはもう消えてて、いつも二人で漫画見てる時のあの子やったから、うちも安心して笑てられたん覚えてますよ。
「あんたら、もうええ加減にして寝なさい。もう何時や思てるの」
お母さんが襖開けてそう言うて来はったから、二人で顔見合わせてから「はーい」言う返事して、わざとらしく頭までタオルケット被ってお母さんが部屋の灯りを消して、行ってしまうまで息を潜めてました。
ほんで修学旅行の場合やと、消灯時間になったとこでまだまだ興奮は冷めんと真っ暗な中ひそひそ話したりするわけやけど、冴子の家に泊まった時もおんなじでしたわ。
「もう行かはったかな? お母さん」
て冴子がタオルケットの下からモソモソ出てきて、
「うん、もう大丈夫そうや」
て、うち。
暗がりで喋るのんは、なんや秘密の共有感が増してええんよね。二人して暗い天井向いて、色んなことを喋りましたよ。
特に印象に残ってるんが、この休みの間にすることとか、どこか行く予定があるんかとか。で、そこから、行ってみたい国とか場所の話になっていったんよね。
たしかうちはその時スペイン言うたんちゃうかな。冴子はインド言うてました。それはよう覚えてる。覚えてるし、ここにも書いてあるわ。
『冴子はインドに行きたいそう。これまた私には理解不能。インドには様々な価値観がありそうだから、らしいが、やっぱり私にはあんまりピンと来なかった。様々な価値観て何。どこへ行っても良いものはいい、悪いものは悪いじゃないのかな。』
ああ、これ見たら、うちが当時、多様性いうもんを分かってなかったんがよう分かるね。自分の周りの半径五メートルぐらいの価値観が全てやと、疑うことも知らんとおった頃やわ。
ほんでから冴子が続けました。
「ほんなら国内は? 国内ではどこ行ってみたい?」
「そうやなあ……TDLかなあ」
うちは暗がりの中、空想に耽ったみたいにして言いました。
「いずみちゃん、TDL行ったことないん?」
「まだないねん。行ってみたいてずっと思ってるんやけどなあ」
「ここからやと遠いもんなあ。うちは一回だけ行ったことある。お母さんが人酔いしてしもて大変やった。お父さんが慌てて炭酸のもん買いに走ったん、めっちゃ覚えてる」
こう言うた時、もしかしたら冴子は少々声が強張ってたんかもわかりません。暗がりで顔も見えてなかったから、その時うちはちっとも気付かへんかったけども。
とはいえうちの推測でしかないよって、実際のところはそんなことなかったんかもわからへんけどね。
その時のうちは素直に、TDLへ行ったいう冴子のことをええなーと思てるだけでした。
「ほしたら冴子は? どこ行ってみたいん?」
今度はうちがそう聞いたら、
「寄生虫博物館!」
いう答が迷いもなく返ってきて、うちはまた、おお、と布団の中で後退りする感じになりました。よう考えたらいかにも冴子らしい答やねんけど、この時は油断してたんか、冴子のことをまだ把握しきれてなかったんか……。
「そんなん、どこにあるん? ほんとにそんなんあるん? 寄生虫がいっぱいいてるん?」
「そうやで〜。大阪の方にあるみたいやねん。いつか行こう思て温めてるねん。いずみちゃん、一緒に行かへん? TDLよりは射程距離やん?」
暗がりの中で、あの子がワクワクソワソワしてるんが伝わってきました。
たしかにそれまでに出てきた場所の中では一番現実的に手ぇの届きそうなとこではあったけど、寄生虫て……、て、うちは思うたけど、冴子の夢を壊すんもはばかられたんで、「うん」言うときました。
「ほんま? じゃあ約束な!」
冴子がこっちに体を乗り出してきて、指切りをしました。
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