第15話

 お湯に浸かった冴子はうちの目に無防備に映りました。当たり前やけどね、裸なんやから。


 あの子は頭にタオル巻いてたけど、取りこぼした襟足の濡れた髪の毛ぇが白い首にまつわりついてるとことか、バストトップがお湯の中でゆらゆらちらちら動いてた様子は、今でも鮮明に覚えてます。


 濡れた髪はいつもよりももっと濃う見えたし、肌はもっと白う見えた。お湯に浸かってるから血色も良うなってて、色味のコントラストがえらい艶っぽうて、ああ綺麗やな、ずっと見てたいな思うて……。


 うちは冴子のことが特別な意味で好きなんやわ……と、思い切って認めてしまうと色んなことの辻褄が合うて、もやもやしてたもんが晴れていくようでした。


 女の子のことが好きなんや、て認めるんは勇気が要ったけど、そうして降参して認めてしもたほうが楽やった。


 うちが冴子を、一人で可哀想に感じたんは、うちがあの子のことを特別な好意を持ってるからやったんでしょうね。ほら、可哀想思うんは惚れた証、みたいなこと言うでしょ。


 なんや、そうやったんか。やっぱりな……て、認めてしもたら肩の力も抜けたようでした。



 とはいえ自覚が芽生えたら芽生えたで、急に自意識も過剰気味になって、ましてや場所はお風呂、裸のあの子を隣にして、同性ながら目のやり場に困って、そのくせ変に興奮して背中がゾクゾクして、どうしよう思いながら湯船の縁を見つめてましたわ。

 我ながら初心やなあ。


 冴子の乳首が桜色なんを確認できた瞬間は嬉しかったわあ……。こうであって欲しい、いう理想のままやったからね。


 裸のあの子を見るんもそうやけど、それよりも裸の自分を見られるんが恥ずかしかった。


 せやからうちは、お風呂上がってタオルで拭いてる時も冴子からは体を隠すようにしてたつもりやのに、そんなん全くお構いなしにあの子はうちの体を覗いてくるんやから参りました。


「いずみちゃん、ほんまおっぱい大っきいなぁ」


 ほとほと感心したいう口調でマジマジ眺めてくるもんやさかい、恥ずかしさで憤死するんちゃうか思たけど、


「うちはまだ全然や……。これでも去年よりはましになったんやけど……なんか右と左、離れてるような気ぃもするし」


 冴子が心底残念そうにため息ついて言うもんで、うちの羞恥心はちょっと横へ置いといて、今度はうちが冴子の胸を見てみました。


 思わずつまみたくなるような桜色のトップに

一瞬見入ってしもたけど、確かに冴子本人の言う通り、控えめな膨らみがそこにありましたわ。

 見ようによっては上品でええとも言えますけど、厚着したら少しも目立たへんやろねえ。谷間はちょっとキビシイかもわかりません。何と言うても本人がもっと欲しい言うてるんやからちょっと悩むよね。


「うちもいずみちゃんみたいになれるんやろか。いずみちゃんみたいな、たわわな感じに。いずみちゃんはおっぱいの下に汗かくやろ?」


「え、あ、うん、まあ」


「うちもそういう汗をかいてみたいねん。それが目標。うちのお母さんもいずみちゃんぐらいあるん。で、もっと大人っぽいおっぱい。うちもそうなりたいんやけどなぁ……もっと豆乳飲まなあかんのかなあ」


 冴子は、うちの外見と体つきのギャップを笑うたりはせえへんかったけど、それでも一糸まとわぬところをジロジロ見られるんは決まり悪いもんがありましたわ。自分でもそんな姿見るんは恥ずかしいのに、ひとから見られるやなんて余計にちゃいます?


 せやからうちは、さっさと体拭くふりしてあの子の凝視から離れたんやけど、あの子は脱衣場に置いてあった姿見にタオルも外した自分を写して、


「うち、早う大人になりたい。豊満なおっぱいの、きれいな女性になりたい。早うお母さんみたいになりたいんねん」


 て言うてました。


 漠然とした目標を語ってるんや思て、うちは柔らかい気持ちで冴子の方を見やったんやけど、鏡を前にするあの子を見るなりぎくっとしました。

 あの子は真剣そのものの目ぇして、なんや鬼気迫るものを感じさせたんです。

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