第9話

 さっきも言いましたけど、冴子と交流出来るんは学校が退けてからだけ、学校におる間はまるで見知らぬ人同然でした。


 うちが教室で他の子ぉらと喋ってる横を冴子が通るような時でも、ちょっとの親しみも見せてはくれませんでした。

 うちのことなんか眼中にも入ってませんいうように、しれーっと通っていくんです。


 うちの方が友達と喋るんを一瞬止めて、思わずあの子の背中を目で追ういう感じ。


 放課後になって二人で落ち合うた時に、昼間のそないなよそよそしさを詫びるいうことも一切なくて、まるで当たり前の態度でした。


 あの子に、なんでグループに入らへんのか聞きました。学校生活をひとりで居るなんて寂しいやんか、て。

 

 そしたら、


「うちは場の空気を読むとか、みんなに合わせるのとか嫌やねん。同調圧力いうの? 長いもんには巻かれろみたいな。みんなが右言うたら右、左言うたら左。そういうのん嫌やねん。うちはうちがええと思うもんだけでいてたいねん、いつも。寂しいことなんかないよ。もし寂しいとしても窮屈なんよりずっとええわ」


 と、けろっとして言いました。せやからどんなに誘ても暖簾に腕押しで全く意味はありませんでしたよ。


 そない言うて断られた当初はうちもがっかりしましたけど、日ぃが経つうちにだんだんとあれは冴子の強がりなんちゃうかという気になってきて。ほんまはみんなの輪ぁの中に入りたいけど今さらそれを素直によう言わへんのやないかて。


 ほら言いましたやろ、あの子は寂しげに見えるて。そんな目ぇで見るようになるとほんまにそんな気ぃになってきて、ひとりで昼休みも過ごしてるあの子の肩を抱いてやりたいような心持ちになったんです。いっつもひとりでいてるあの子が不憫に思えてどうしようものうなって。


 うちらは下校の時も一緒に学校は出んと公園で落ち合うて言いましたやん?


 それで、あの子のことを不憫に思えてどうしようものうなった日ぃも、公園で落ち合うた時になってやっと初めてにこっと笑てくれたんやけど、その顔見た時のうちがどれほどまでに安堵したことか!


 あの時分はそんなん分かってなかったけど、あの緊張と緩和の繰り返しが、思えばうちの心にあの子をちょっとずつはっきりと刻み込んでいったんや思います。


『放課後、公園で冴子の笑った顔見たら泣きたくなった』

 て、その日ぃの日記にも書いてるわ。

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