第8話

 ほんで二人漫研の活動なんやけど。


 冴子の言うように新号は発売日に買ういうルールにして、その足で本屋さんへ予約に行きました。駅前の通りには普通の本屋さんがあったんです。この本屋さんは今でもあるんかな。


 この本屋さんとさっきの古本屋と笹野公園。この三つがうちらの活動の場でしたね。


 新号を予約した漫画雑誌はいくつかあったけど、その中には冴子のご贔屓のサブカル雑誌ももちろんありました。


 うちも毎号、一応目は通してたけど、やっぱりサブカル作品の良さはわかりませんでした。そう言うと過去形みたいに聞こえるけど、実は今もあんまりピンと来てへんのです。


 やっぱり何とのう、うちの焦点とは合うてなくて薄ら寒いもんを感じてしまうんです。


 せやからね、それを熱心に愛読する冴子のことも、なんや異星人みたいな気したこともありましたね。

 そこがうちにとってはあの子に惹かれたとこでもあったんやけどね。


 あとはうちが描いた漫画を冴子が読んで感想言う、いうこともようやってました。

 ちょうど漫画を描き始めたばっかりぐらいの時やったから、今からしたら目も当てられへんもんやけど冴子はそんな漫画でも一生懸命読んでくれてなあ。


「いずみちゃんすごいなあ、ようこんなん描けるなあ」


 言うてよう褒めてくれました。


「将来プロになったらええのに」


 ともよう言うてくれて。その時分は気恥ずかしいばっかやったけど、冴子の言葉が、うちの本気でプロを目指そういうのんの後押しをしてくれたいうのはありますよね。


 冴子はうちの拙い漫画を褒めてくれたけど、うちはそれを読むあの子の顔を見てるんが好きでした。

 すっと筋の通った形のええ鼻とか、漫画のコマを追う目の動きとか。

 氷の彫刻みたいやなあ、てアホみたいに見惚れてたもんです。

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