第4話
冴子はほんまに美しい子ぉやった。ぱっと目を引くような華やかさいうのとは違て、近くで見てるといつの間にかこっちの意識が全部持っていかれて動けんようになるような。
なんていうか儚げなんよ。顎と鼻が細筆ですっと線引いたみたいに形が良うて、黒いまつ毛も長うてね。ただでさえ全部の線が細うて儚げやのに、伏し目がちになるとそのまつ毛が目の上に覆いかぶさるようになって影作って、より寂しそうな感じが際立ってねえ。
うちはそれにぞくぞくしたもんやわ。手ぇ伸ばして触れたら、スイっと消えてしまうんやないか、て、仲良うなってからもよう思わされてたわ。
入学して間ぁない時は、冴子は窓際、うちはそこから三列離れた後ろの方の席やったさかいに授業中はようセンセの話も聞かんと冴子の方にばっか気ぃ取られとったわなぁ。
午後になるとそっちの窓から光が入ってきて余計にあの子をこの世のもんとは思えんような神秘的なもんに仕立てあげるんよ。
うちはその頃からもう、将来は漫画家になるいう夢持ってたからそういう冴子の姿をようスケッチしてました。
そないに気になってるくせに話しかける勇気はやっぱりなくて、うちが他の子ぉらと喋ってるすぐ横をあの子が通っていったりすると、つい目で追うてしもて、せやけど何もよう声かけん自分が歯がいいて、まあそんな感じやったんです。
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