第3話
学校へ行くんは俄然楽しみにはなったんやけど、せやから言うて冴子とそないすぐに仲良うなれたかいうと、違うんです。あの子は中等部から上がってきた子ぉやのに、いつも一緒に行動するような友達いうのは特にいてなかったんです。いっつも一人でいてて休み時間も誰かとつるむいうことはせんと、自分の席で本を広げてました。
よう机に肘ついて右手で髪の毛を耳にかけたりしながら本を見てました。
その姿を遠目に、何の本を見てはるんやろうと焦れるみたいに思てたもんやわ。
話しかけてみたいいう気持ちはあったよ、そりゃ。せやけどどうにも気後れしてしもてねぇ。なんでって、あの子一人でもう世界が完結してるように見えんねんもん。
邪魔せんといてやいうオーラが立ち込めてるように見えました。
うちは入学してすぐに一応友達も出来たんです。中等部から上がってきた子ぉらの中のグループと息が合うて、学校ではその子ぉらと行動してました。お弁当食べたりね。
お弁当は学校の敷地内やったらどこで食べるのも比較的自由やったから、よう校庭にも行きました。
女子校いうんもあるんかなぁ、花壇やとかには力入れてる学校やったから、陽気のええ時は特に、みんなで外でお弁当食べるんが楽しかったんです。
せやけど冴子は違た。あの子はお弁当食べるんも一人でいてました。
ある時、うちらは校舎を出た、校庭が見渡せるような段々になった応援席みたいなところで昼休みしてたんよ。そしたらちょうどそこからは学校ご自慢の藤棚が見えて。
同時にその下に置かれたベンチで冴子が一人お弁当食べてるのに気づいたんです。
うちはまたその時はっとさせられました。遠目でようわからへんのやけど何となく冴子が寂しそうに映ったんです。
ほんでも次の瞬間には一人で満たされてるようにも見えて。
気になってしもて仕方なかったから、一緒にいてた友達に聞きよったよね。
「なあ、あれって同じクラスの子ぉやんな?」
そしたら友達はうちの言う方を付き合い程度にちらっと見て、
「ああ、ほんまやな。藤川さんや」
「あの人も中等部からやろ? どんな人なん? うちまだ喋ったことないわ」
ここでさりげに情報引き出したろ思たのに、
「さあ……? うちもようわからへん。中等部の一年の時に同じクラスやったけど、その時からあんな感じやったよ。一人でいてるのが好きなんとちゃう? あんまり誰かと喋ってるのとか見たことない。お父さんが小説家いうのんだけは聞いたことある。本人からちゃうけど」
友達から聞けたんはそんだけ、他の子ぉに聞いても同じようなもんでした。
大した情報は得られへんかったけどうちはほっとしました。少なくとも冴子が特に嫌われてるいうことはなさそうなんがわかって安心したんです。
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