第2話
冴子に初めて会うたんは高校に入った時。星群学園いう、中学から大学まで一貫の女子校の高等部から編入していったんです、うち。
この学校は制服が可愛かったんです。ほら見て、ここにイラストある。ね? なかなか見たことない感じやろ? それが志望動機みたいなもんやったわ。
入学式の朝に憧れやった制服に袖を通したんやけど、なんやキツネにつままれてるみたいでねぇ。学校へ着いてクラス分けの紙に「中野いずみ」の文字見てやっと星群の生徒になったんやいう実感がわいて、ものすごう安堵したんを今でもよう覚えてます。
え? 嫌やわあ。うちの名前ですやん! 「中野いずみ」。うちの本名。「和泉サツキ」は漫画家としてのペンネームです。
で、そう。クラス名簿の中に自分の名前見つけて安心したいう話やったなあ。
ほれ、うち、その当時からもうこないに背ぇ高うて、おまけに髪も短こうて、ぱっと見ぃ女の子らしさがあんまりなかったんです。男の子みたいやいう自覚はあったんで、星群に合格したんは嬉しい反面、ほんまにええんかな、て変な引け目もあったんです。今思たら、自分が女の子やいうことにいまいち自信持てへんていうとこで、既に冴子に惹かれる下地みたいなもんは元々持ってたんかもわからへん。
で、迎えた入学式やけど。周りの子ぉらがみんな小柄で可愛らしい見えてねえ、おんなじ制服着ててもこうも違うもんかとちょっと悲しい気分になりました。
まあせやけど冴子に会うたとたん、そないなしょうもない、はっきりせんモジモジは全部吹っ飛びました。
一目惚れいうんでしょうねぇ。あの時は何にも考えてへんかったけども。
うちは冴子に一目惚れしたんです。
あの子を初めて認識したんは入学式の次の日ぃでした。
入学して最初のホームルームのときに、まだ緊張が抜けへんままに目ぇだけで周りの様子をきょろきょろしてたら、心臓撃ち抜かれたみたいに釘付けにされたんが冴子やったんです。
あの子が窓際の席いうこともあったんやろうけど、こう、後光が差してるみたいやった。
第一志望の学校やったとはいえ、場違いなとこへ放り込まれたみたいな居心地の悪さを感じてたんが、あの子が目ぇに入るや、ヨッシャー! いう感じに心の中でガッツポーズ決めてました。
ここにも書いてるわ。
『クラスに日本人形みたいな子がいる。名前は「藤川冴子」というらしい。昨日、入学式の時にもいたはずなのに全然気が付かなかったことにびっくりした。あんなに美しい子がクラスにいたなんて。可愛いというより美しいというのがあの子にはぴったりだと思う。』
冴子は一見したところは普通の女の子なんよ。周りの他の子ぉとそんなに変わったところはあらへんかった。
せやけど何ていうんか、老成したいうんかな。他のきゃぴきゃぴした女の子らの軽い空気の中で、冴子はものすごう静かに落ち着きはろうてたんです。あの子だけ、さっと掃いたみたいな静寂さが取り巻いてました。
姿形もね、みんなうちより小さかったけど、あの子はその中でも特にちまっと小作りやったわ、手ぇも足も。
体つきだけやなくて顔立ちの方も、極細のペンで丁寧に丁寧に描き込まれたみたいな繊細さで、そこも他の子ぉらとは違てましたね。
花で言うたら桔梗とか竜胆とかやろか。あんまし派手やのうてひっそりした雰囲気。とにかく日本風なんです。
おかっぱよりもちょっと長いくらいの髪してたけど、その髪の毛ぇも、見るからにさらさら言うんやのうて、手に吸い付きそうに黒々しっとりしてましたから余計にそういう印象を強うしたんかもわかりません。
その時の冴子は、一応顔は前向いてましたけど、ぽーっと上気して夢でも見てるような、はてさて意識はどこへ飛んでるのやらいう様子で、それがまたうちのハートをわしづかみにしたんやろなあ。
どない? うちが初めて冴子から受けた衝撃、わかってもらえました?
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