第43話 エディカ救出

「裏切ったな。エルディー! ミリア!」


 と言いつつもエルディーの妹であるエディカは無事なようだ。

 髪を掴まれ泣いているが生きている。


 そして、枝口によれば、枝口たちの役割は王が逃げるための時間稼ぎという話だったはずだが、王は俺たちを前に逃げる様子は全く見えない。


「エディカ!」

「……おねえ、ちゃん……」

「おのれイルマット。その手を離せ!」

「おいおい。エルディー。剣を抜いていいのか? そんなことをすれば妹がどうなると思う?」

「汚いぞ。ここまで追い詰められておいて……」


 今にも殺しそうな様子のエルディー。

 エルディーほどの速さなら解決できそうだが、何か仕掛けがあるのかもしれない。

 それに、やけに見にくい場所に魔王がいるのも気になる。簡単に動けないのはそのせいもあるか。


「なにもすぐに殺してもよかったが、とっておいたのにはそれなりに理由がある。全員まとめてこのワシに従うというのなら、今回のことは不問にしてやろう。それほどまでにお前らには価値がある。捨てておくにはもったいないほどのな。ただのザコではないやつらだから特別待遇も約束しよう。しかし、聞かぬなら……」

「ひっ……」

「くそっ……」


 エディカの首元に当てがわれる刃物。


 遠隔まで届くということはわかったが、実行までを止められるだけ。

 枝口の進言が地味に効いてるってことか。


「お姉ちゃん、エディカのことはいいから……」

「そう言うわけには……エディカ……」

「泣かせる姉妹愛だが、そちら側から変な動きをすればお前の妹の命はないからな。それはエルディーお前が一番わかっているはずだ。そう、わかっていたはずだ。次はない」

「くそう……」


 この様子ではエルディーは動けない。


 だが、エディカが振り切ってこっちに来られれば話は別。一瞬のスキが作れればそれで十分。

 いや、そんな力があればそもそもこんなことには、いや待て、動けなくても口は使えるんだよな。エルディーだって話していたし。


「どうした? なにを迷うことがある? まさか妹は大切じゃないのか? そこまで薄情なやつだったとはな!」


 エルディーは自然と俺を見てくる。一瞬、たった一瞬、俺というただの見知らぬ一般人へと意識が移り、目の前の王の体から、力が抜けたように見えた。

 こいつは自分でも倒せそうという舐めた表情。


 今なら誘い出せる!


「王、その手を離せ! そして、エディカ! こっちへ来い!」

「誰がそんなことを! ……いや、それくらいなら……?」

「っ! お兄ちゃん! うん!」


 王の緩んだ力を振り払いエディカは勢いよく俺に向けて走り出した。


 今、何か出た気がした。今までとは違う何かが出たように見えた。

 だが、それは一瞬で消えてしまった。気のせいか? エディカに向けて何か出たような気がするのだが。


 ひとまず、エディカが王に再び捕まることなく走ってくる。奥から不敵な笑いが聞こえてくるが、動く様子は見えないし今は無視だ。


「このワシはなにをしているのだ! うん、ではない! おとなしくしていろ! 貴様は人質なんだぞ。なんだその動きは!」


 エディカは素早く俺たちの元に駆けてきた。

 そして、王の手をすり抜けてきたエディカは、真っ直ぐ俺に抱きついてきた。


 ……あれ、俺?


「お兄ちゃん。怖かったよぉ」


 俺の足にしがみつき、泣きながら頭をこすりつけてくる。

 自分のことは気にするな、のような発言はやはり、強がりだったようだ。


 でも、なぜ俺?


「えっと。よく頑張ったな」

「うん!」


 目元を赤くしながら、エディカは子どもらしい笑顔で返事をしてくれた。

 ひどい目にあっていただろうに、エルディーに似て強いんだな。


 エルディーいわく、力より頭と言っていた。気がするが、結構痛い。いや、このままだと足が締められる。


「え、エディカ。そろそろ本物のお姉ちゃんの方へ行ったほうがいいんじゃないか?」

「このままじゃダメ?」

「ダメじゃないけど、エルディーがさみしそうだし」

「そうだね。わかった」


 なぜかエディカは俺から離れるのを寂しそうにしつつ、エルディーの方に歩いて行った。


「よかったエディカ! 本当によかった……」

「心配しすぎだよお姉ちゃん」

「心配するさ」

「ふふふ。もー。あれ?」


 さすがに気疲れが出たのかふらっとしてエディカはエルディーにもたれかかった。


 これはエディカを守る誰かが必要だ。もちろん、それはエルディーの役割だろう。


「エルディー、大丈夫だ。あとは任せろ。もうなにも怖くない」


 俺はイルマット王へと厳しい視線を向けた。

 王は呆然とエディカが無事なことを不思議そうに見ていたが、やがて、自由にさせてしまったことを自覚した様子で顔を赤く赤く変えた。


「おのれ! どこの小童か知らんが余計な小細工をしおって! こうなったら誰も生きて帰さん!」

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