第44話 王との戦い
「ふん。飼い犬が飼い主に噛みつくとはな。しつけが必要なようだな。死んでも返さん」
「相手が誰かわかってて言ってるのか?」
「お前が誰だか知らないな。そもそも相手をする必要はない。そこのエルディーの妹さえ、また手にすればいいのだからな」
「くっ、卑怯な」
この王はエディカを取られても、エディカしか狙っていないようだ。
任せろとは言ったが、どこからどうするか。
後ろの男も気がかりだし。
「とにかく大丈夫だ。エルディーが離さなければ、エディカが相手の手に渡ることはない」
「そうだな。二度とエディカを離してなるものか。そんなことさせてなるものか」
しかし、ここは王のテリトリー。そうである以上油断は命取り。デューチャも魔王と思われる男の警戒で頼りにならない。
俺が一歩前に出ると、こらえきれないといった様子で王が笑い出した。
「なにがおかしい」
「一国の王であるこのワシが舐められたものだと思ってな。いや、実に面白い」
王は手に持ったナイフを捨てると、どこからともなく現れた剣を引き抜いた。
動作に無駄がなく、ただものではないことはわかる。
「どこの誰とも知れぬような未熟者に、このワシが遅れを取るとでも? どうせここまではエルディーに解決させてきたのだろう?」
油断してくれているのはありがたいが、突破法を考える時間がほしい。
ひとまず力を見せてみるか。
「それはどうだろうな」
くいくいっと手を動かし俺は一時的に制限していた大槻を自由にする。
すると、待ち望んでいたかのように、大槻は俺にくっつくと体をすりつけてきた。
「おい! ミリア! このワシはそんなことをさせるためにお前を雇ったのではないぞ。他の者と違い命があるなら、このワシのために戦わぬか!」
「アタシはアタシの好きな方についてるだけ、報酬がより魅力的ならそっちへ行くでしょ? 普通」
「ぐっ! ならば、今までの十倍出す。今すぐそこにいる全員を殺せ!」
「足りないわね」
「足りないだとぉ?」
俺たちのいるところまで音が聞こえてきそうなはぎしりをする王。
確かに論理は通っているように思うのだが、俺、大槻に何か報酬を渡していただろうか。
金は今のところ渡してないし、大槻に得になるような条件も提示できていないはずだが。
そんな風に思っている間にも、大槻ははあはあと息を漏らしながら、俺に柔らかい体を当ててくる。
いや、大槻の条件に関してはどうでもいい。
そもそも、俺としては大槻の様子を見て観念してくれた方がよかったのだが、残念ながらそんな様子はない。
王はというと、なぜかニタリと笑っている。
「そうかそうか。お前はそのような力の持ち主なのだな。なにもできないわけではないようだ。エルディーに効いている理由はわからないが、ここまで来られた理由はわかった。だが、その力をこのワシに見せてどうする? このワシは男。同じ手は通用しない。悪かったな。それとも、その女を盾にでもするのか? 非道な人間め」
「溝口。アタシは溝口の力になれるならそれでもいいです」
ほほを赤くしながら言ってくる大槻。
いや、だから大槻を犠牲にするわけにはいかないのだが。
まあでも、精神的に自己否定するような言葉遣いをしてくるあの王様には正直うんざりしてきた。
「魔王は警戒しつつ王の首をはねる」
「そう、アタシのことは犠牲にしないというのね。なら、せめて力になりたいです。アタシが助けてもらったんだもの」
「大槻は何かできるのか?」
「もちろん。アタシは周りの人の強化もできますから」
そう言うと、大槻はなんの触れもなく俺にキスしてきた。
いきなりのことに目を見開く俺に優しく微笑みながら、頑張って、と言って大槻は俺の後ろに下がった。
どういう心境の変化なのか。
いや、ただ下がったわけではないらしい。
元チアリーダーの本領を発揮とばかりに、
「フレー! フレー! ミゾグチ! がんばれがんばれ! ミゾグチ!」
と、騒がしく応援を始めた。
うん。なにをしたのかは全くわからなかったが不思議と力が湧いてくる感覚がある。
これが大槻の選ばれし聖女とかいうスキルなのだろう。
「やかましいわ! 聖女は聖女らしくしていろ!」
王は苛立たしげに突進してきた。
さぞ大槻の応援が気に食わなかったようだ。
完全にこちらのペースに飲まれている。
そして、謎の剣は、剣だけで戦況をくつがえせるような代物ではなかった。また、王の動きは悪くないが、
「エルディーほどではないな」
「くそが」
やはり老体らしく攻撃は弱い。大槻の力もあろうが、王だかなら余裕そうだ。
攻め手に欠けるのは、奥にいる魔王のせい。これは一生動けなくしてしまうか。
「止まれ」
「なにっ! 体が重い……」
さすがに嫌われすぎているせいか効果が悪い。動きを鈍くする程度。
そうやすやすと効いてはくれないようだ。
だが、エディカに使った時、何かが出てエディカに当たったような感覚があった。
あれが何だったのかわからないが、もしかしたら、あれなら。
「でも、どうやれば……?」
「はあ、はあ。剣を一度振るっただけでここまで動きが鈍くなるとは。歳はとりなくないものだな。仕方ない」
動きを自覚し攻撃の手を止めると、王は大きく腕を広げた。
「魔王。少し早いが契約だ!」
ニタリ、と王の背後に立つ魔王の白い歯が光り、影となっている男が笑った気がした。
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