第41話 山垣と大槻の関係は……

「山垣……」


 王の間から続く通路にぼーっと座っていたのはクラスでも実力者と言われていた山垣。


「生きてたのか溝口。河原も」


 山垣は俺たちに気づくと立ち上がってにらみつけてきた。


 正直、いい暮らしをしていたはずなのに、こいつらは一体何を考えてこんなことをしているのだろうという思いだ。

 よりいい生活でも求めているのか、実は苦しい生活でもさせられてたのか。

 考えても仕方ない。


「お前らが来てるってことは、俺たちの前任が裏切ったっていう枝口の話はホントだったのか」

「でも、通してるってことは、枝口くんは捨て駒にもならなかったみたいね」


 山垣の隣に立つ大槻が冷ややかに言った。


 最近は、少し前よりも愛以外の感情も理解できるようになってきた気がする。

 だからこそわかる。俺は山垣と大槻が不快なのだと。

 だからこそ、眉を寄せてしまうのだと。


「大槻さん!」

「雪、元気かしら?」

「この国の王様が何をしているかわかって協力してるの?」

「そんなの知ったことじゃないわよ。そもそもあんたなんてね、外野としていただけなんだからアタシのことにどうこう言うんじゃないわよ」

「外野って」

「気づいてなかったの? まあそうかもね。自覚がなかったから自分は違うみたいな顔してたのね。アタシはそんなあんたに腹が立ってたのよ。今ここでアタシの新しい力で潰してあげる。死んだと思ってたけど生きてたし。直接にね」


 河原の方は方で色々あるみたいだ。楽しげに話していたクラスの時とは変わり、こっちにきてからどうも仲が悪いからな。


 そんな時、つんつんと河原が俺を突いてきた。


「溝口、あの二人を正直にさせられる?」

「やってみるか」


 どういう意図があるかはわからないが、何か考えがあるのだろう。

 俺は河原を信じて二人を素直にさせようと意識を集中させた。


 枝口の反応からすると、俺への好意がもろに溺愛の権能の効きやすさに影響しているみたいだが、


「……っ!」


 二人に向けて同時に流し込むように力を放つ。

 以前に嫌われていると効果が悪いようだが、効かないわけではない。


 そうでなければ、助けると言っただけで枝口の好意が変わるわけがない。


「ん? 何かしてるのか?」

「準備じゃない?」

「そうだな。枝口を倒したくらいだし何かあるんだろう。が、俺様たちに効くようなものがあるとは思えん。好きにすればいいさ」


 完全に油断してくれている二人を前に、俺はじわじわと二人の意識を流し込む。

 時間があるならきっと大丈夫。


 少しずつ二人は俺たちへの罵声が増え、やがて二人は俺たちを睨むのをやめ、お互いに向き合った。


「みりあ、こんなタイミングだから言いたいことがある」

「あら奇遇ね。アタシも山垣くんに言いたいことがあるの」

「本当か!?」


 何やら勝手に話が進んでいるようだ。俺は素直になるようにしただけなのだが。


「これでいいか?」

「十分! あとは見てればいいから」

「そうなのか?」


 河原の中ではどうやら思ったような展開が進んでいるらしい。

 やはり、少しはわかるようになったと思ったが、そうでもなかったみたいだ。


「みりあ、俺様はみりあのことが好きだ! もしかして、みりあも?」

「ええ」


 不敵に笑う大槻。


 え?


 これは、俺は何を見せられているんだろう。

 興奮した様子の山垣と笑顔の大槻。なんでこんなのを見せられているんだ?


「河原」

「待って、今いいところだから」


「アタシ、山垣くんのこと、ずっと嫌いだったの」

「よっ……え?」


「え?」


 河原は思った通りというような顔をしているが、全くもって予想の逆だった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、みりあ。一体どういうことかな?」

「力が強くて能力があってイケメンで結果も残してるけど、山垣くんはそれをひけらかしすぎだし、簡単に怒ってて頭悪そうだし、ずっと余裕がなさそうだし、挙げればキリがないわ。マイナスが多すぎなのよ。何故か一番ってことになっていたから隣にいたんだけど、正直ずっと、もっといい人が早く現れてくれないかなって思ってたの。だから、ごめんなさい。山垣くんのことはそういうふうには見れないわ」

「……そ、そんな。嘘、だよな?」

「嘘じゃないわよ。そもそも山垣くんってなんだか臭いし」

「臭い……そう、だったのか……」


 山垣はいつもの自慢たっぷりな笑顔を消し、光の失った瞳で地面を見つめている。

 相当ショックだったのか、手に持っていた剣も落とし、その場にへたり込んでしまった。


「は、はは。ははは」


 山垣の口からは乾いた笑い声だけが聞こえてくる。

 俺たちがいる場所からではその表情まではうかがえない。


「知らなかった」

「女子の間では有名だったけどね」

「うわー」


 何か攻撃をしたわけではないが山垣は戦闘不能といった様子だ。

 だが、面と向かって対うより、よっぽどいい結果だろう。


「ちょっと山垣くん。さすがにアタシ一人だと負担が大きいんだけど。なに座ってるのよ」

「……はは、ははは」


 大槻に揺らされても放心したように山垣は笑い声を出すだけだ。


「アタシ、何かおかしなこと言ったかしら」


 大元は大槻のせいだと思うが、大槻に自覚はないようだ。


 これであとは大槻だけか。

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