第40話 枝口の末路

「何かズルでもしたのかい? でも僕には君の力がこれから手に取るようにわかるんだよ?」


 無闇な手出しはしないでもらっているからか、デューチャが早く倒せとばかりに、後ろの方でなんだか手をワキワキさせだした。が、待ってほしい。

 もう少しかかる。


 しかし、待ってみるが変化がないな。


「なあ、本当に使ってるのか? 俺が全力を出しているかどうか、本当にわかってるのか?」

「なんだって?」

「初めから、戦わないなら見逃してやろうと思っていたとしたら? 調子に乗っている段階でも、まだ先を通すか見ていたとしたら?」


 俺の言葉に枝口は顔を真っ赤にしてぷるぷると震え出した。


「まさか、僕が遊ばれていたとでも言いたいのか!」

「そうだよ。あのエルディーがお前程度に攻撃を当てられない訳ないだろ。余裕ぶってないで早く鑑定しろよ」


 他にいるかもしれない鑑定使いへの対処の勉強になるんだからな。


「そんなに言うなら使ってあげるよ。手の内をあえて見せるなんてよほど余裕なんだね」


 ニタニタ笑いながら枝口はメガネに手を当てた。

 俺がスキを見せてやるとようやく鑑定するつもりになったらしい。

 枝口は俺をまっすぐ見て、


「「あっ!」」


 情けない声を上げた。


 いや、俺も驚いて思わず声を出してしまった。


 これは仕方ない。

 メガネがまるで生きているかのように枝口のことを突き飛ばすと、明後日の方向に動いてどこかへ行ってしまったのだ。


「……」

「お、おい! どこへいくメガネ!」


 メガネは枝口の言葉も聞かずに去ってしまった。

 メガネが去るって……。


「っ! まさか、メガネが本体だったとは……」


 あのメガネが特別なのか。


 そういえば、エルディーは道具の効果ならば受けるとも言っていたような気がする。

 つまり、攻撃の予測を鑑定できたのはメガネが鑑定スキルを持っていたからか……?


 でも、あれは枝口で……。


「違う! 僕はあのメガネがなくても鑑定さえあれば戦えるんだ。鑑定!」


 格上には効かないという話だったが、普通に使っているようだ。

 まさか、溺愛の権能は格上じゃないとでも……?

 いや、使えてもどうなったかまでは反応を見てみないとわからないな。


 じっと様子をうかがってみるが枝口に変化はない。

 うーん。そんなことないな。なんだか青ざめているように見える。


「え、嘘だ……。こんなの嘘だ! 見えない? 溝口のステータスが見えない。河原のも他の女のも! そんな訳ない! 鑑定、鑑定! 鑑定ッ!」


 枝口は何度も鑑定を使おうとしているみたいだが、枝口の焦った様子は全く収まる気配がない。


 ツバを飛ばしながら何度も同じ言葉を叫んでいるが、一向に思った結果が得られた様子はない。


「やっぱりメガネが本体だったんだな」

「違う、そんな訳ない。あんなただのメガネが本体でたまるか」

「道具は大切にしようぜ」

「うるさい!」


 そんなだからメガネにも逃げられるんじゃないか?


 結局、何が起きているのかわからないがこれはチャンスだ。

 枝口は視力が低いからメガネをかけていたはず。そうなれば当然、メガネがなければ視界はぼやけているだろう。


「ぼやぼやの視界で大丈夫か?」

「剣一本の男に負けないね。僕だって、剣はいいものだからさ。賭けの内容は忘れてないだろうね」


 こんな状況になっても勝つ気でいるのか。

 しかし、その頼りの剣も、価値まではわからないが、俺たちが持つものよりは劣りそうだ。


「どこからでもかかってきなよ」


 それに、俺のことはやはり見えてないようだ。

 俺はすでに、話しながら枝口の背後に回っていたのだが、未だ枝口は入口の方を見ている。


「落とし穴に関しては、君になら効く。そのことが気になって攻められないのだろう?」

「ああ、そういう」


 俺が声を出したことで、枝口は初めて俺の移動に驚いたように振り向いた。

 そのまま慌てたように足を滑らせ、突如現れた穴に落ちかけた。

 だが、なんとか腕で踏ん張りを見せ、落ちることはまぬがれたようだ。


「残念だが俺たちは足場が悪いところで戦うのは慣れてるんだ。木の根に足を引っかければ死ぬような環境だったからな」

「なんの話だ!」


 未だにしぶとく穴に落ちないようにしている枝口。


「鑑定してまで知りたがっていた俺の力を見せてやる。そうだな。そこから助けてやるよ」

「本当か!」


 急に明るくなる枝口の顔。

 俺への好意が一気に強まったことがうかがえる。


「なら、俺の言うことを聞け」

「いや、そんなの、誰が……わかった」


 たとえ嫌われていても、一気に感情を詰められる。

 本来はこんな力じゃないのだろうが、


「それじゃあまずその支えにしている腕から力を抜け」

「わかった」


 枝口は疑うことなく踏ん張るのをやめ、自分から穴の底へと落ちていった。

 どこにつながっているのかは知らないが、優秀なら勝手に助かるだろう。


「ふぅ」


 まだ、周りへ溺愛の権能を使いながら、特定の誰かにも発動させるのは慣れない。


 そして、エディカを助けたいという思いからの行動ではあるが、人を操るのは、洗脳じゃないと言われていてもなんとも複雑な気分だ。

 枝口の結末に同情はしないが。


「戦うのかと思ったが、戦わないんだな」

「力は温存しないとな。まだ次がある」


 枝口を突破した俺たちはエルディーの知る隠し通路へと足を踏み入れた。

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