第36話 エルディーとの力試し
「準備は整ったな」
死の山に戻ってから、オンケラさんにもらった刀も軽く振ってみた。ティシュラさんには悪いがこれまでの剣よりもむしろ扱いやすく感じた。そのうえ、威力も出る。
とにもかくにもいい刀だった。
しかしそんな素振りをする俺たちを見てティシュラさんは、専門でないのに悔しさに燃え、次こそはと息巻いていた。
「さて、あとは作戦を確認して乗り込むだけか」
「いや、まだだ」
「え?」
エルディーは剣を地面に突き立て、くちびるから血が垂れるほどに噛み締め、ものすごい形相で睨みつけてきていた。
「お、お前たちの実力が、私の、背中を、預けるに値するか、この私が直々に見定めてやる!」
「苦しいのならわらわに任せて休むのだ。さあリュウヤ様。罪のない少女を助けに参りましょう」
「違う! リュウヤの力で思ってもないことを言うのにものすごく抵抗があるだけだ!」
「つまり心から信頼していると。なら別の言い方もあると思うのであるが」
「ええい! デューチャは黙っていろ。フェイラ様も含め三対一だ。いいなリュウヤ」
「俺はいいけど……」
実力を認めてくれるのは嬉しいが、さらっと言うから俺でも照れる。
河原もフェイラも地上最強のエルディーに言われて少し照れた様子だし。
一応、河原とフェイラの顔を順に見ると二人ともうなずき返してくれる。
どうやら問題はないみたいだ。
やると決まったら、手は抜かない。というか抜けない。
「それで、ルールは?」
「一発でも私に当てればお前たちの勝ちだ。そして、お前たちに怪我はさせない。だが、負けを認めた方がラクな程度には実力を出す」
「つまり、俺たちが負けを認めるまで続けるってことだな」
「そういうことだ」
「わかった」
スキルを無効にするエルディーにも溺愛の権能は有効だとわかっている。
だが、できることならギリギリまで溺愛の権能はなしでいきたい。
もらった刀を試したい。
そして、エルディーに教えてもらってどこまでエルディーに剣術だけで近づけたのか知りたい。
「では、わらわが判定をつけさせていただきますわ。準備はよろしいですか?」
「ああ」
「もちろん」
「いいよ」
「大丈夫だ」
全員の返事を確認するとデューチャの手が挙げられた。
「では、初め!」
勢いよくデューチャの手が振り下ろされる。
それと同時に動き出すエルディー。だが、その動きはいつもよりは遅く、目に見えるスピードでの移動。
しかし、エルディーの動きがなめらかすぎたことで反応が遅れた。
「河原!」
「うっ!」
激しいノックバック。エルディーの剣を見れるようになったのは上達だが、戻れるのか。
「大丈夫か!」
「あたしは気にせず続けて」
「それじゃ、リカバリーは任せて」
「フェイラ様も剣に関してはまだまだですね」
大振りすぎる動き。
接近こそするものの刀はいとも簡単に後方へと弾き飛ばされた。
「ありゃ」
「さあ、残るはリュウヤだけだ」
あっという間に河原とフェイラを無力化してしまったエルディー。
実力を確かめるという話だったが、そんなことをする気があるのかという戦い方だ。
だが、関係ない。
「来いよ」
「ほう。一対一で勝てるつもりか。まあ、三人の中では一番厳しく鍛えたからな。自信があるのは構わないが、それは冷静な判断か?」
「つべこべ言わずにかかってこいよ」
「面白い」
あえての挑発。
軽い挑発だったが、エルディーは乗ってきた。むしろ、楽しそうな笑顔を浮かべてノリノリな様子だ。
手を抜いているのはわかっている。油断の言い訳をくれているのか。
いや、単に今の戦いに集中しているだけだろう。
静かな接近。一歩一歩、全くスキのない動き。
笑顔のままゆったりとした足取りで近づいてくる。
「はあ!」
「う、く、くっ!」
「ほう? ここまで防いだのは人では初めてだ。全て受け切るか」
「どーも」
なんとか攻撃を全て防ぎ、距離を取る。
ほめてくれたみたいだが、正直限界が近い。
手がビリビリする。もう握るのもきつい。
「さあ、ここからどうする? このまま続けても防戦一方だろ?」
「こうするのさ……エルディー、待て」
「え……わか、った」
一瞬だけ抵抗した様子だったが、穏やかな表情になるとエルディーは手から剣を落とし俺を見つめ出した。
勝ち負けではなく実力で判断しようとしてくれていたのだろう。
だが、俺は勝ってエルディーとともにエディカを助けたい。
俺は、トン、とエルディーの鎧に刀を当てた。
「さ、これで俺たちの勝ちだ。もういいぞ」
「勝者! リュウヤ様! エルディーにも勝ってしまうなんて。さすがです! ステキですわ」
「リュウヤ。これは、一体……それに、私に勝つとは……」
「言ってあったろ? 溺愛の権能だよ。その力のおかげだ」
「だが、私には本来スキルの類は効かないはず。それを超えているのはリュウヤの実力だ。それだけじゃない。私の攻撃を防いだ実力は本物だ。ユキもフェイラ様も今なら魔王相手でも問題ない実力でした」
「あたしはギリギリだったけど」
「攻撃を受けても意識を保っていたじゃないか」
「わたしは武器を簡単に飛ばされたけど?」
「間近まで迫られましたよ」
それぞれエルディーが相手でなければ十分な実力を身につけたということみたいだ。
「エルディーがいいってんならいいだろ。じゃあ、侵入計画の確認をしようか」
「ああ!」
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