第35話 もらったお金で
息抜き用にエルディーの師匠からお金をもらったようだが、俺この世界の金で何ができるのか知らないんだよな。うん。
俺たちの生活圏ってまだ貨幣の概念がないからな……。
まあ、街を歩いてみた限りでは店があってそこでものと交換しているから使い方に差はないのだろう。
「なあ、どこかを回る前に一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「オンケラさんはどうして似たような剣を三本も持っていたんだ? それに、じゃっかん形状が使ってたものと違うんだが……」
いや、なんだろう。思ったことを聞いていたのだが、この形どこかで見たことがある。
そうだ。剣って言われたから一瞬つながらなかったが、これって、
「なあ、河原。これ刀だよな?」
「だよね? ずっと剣って言い方を不思議に思ってたんだけど、やっぱりそうだよね?」
河原はすでに気づいていたらしい。
何やらやたらと目をキラキラさせて刀を確かめている。
そういえば、河原の持ち物の中に刀を使う登場人物が出てくる作品もあった気がする。
なるほどな。
まあ、河原の様子は見た目で興奮しているだけじゃないだろう。
街中で抜刀はできないが、やたらと手になじむ。不思議な武器だ。
「これ刀で合ってるか?」
「そうか。知っているのか。リュウヤたちが言う通りそれはカタナだ。その剣は持ち主に呼応するほどの優れた武具だな」
「やっぱりそうか。でも、刀は使ったことないから、同じのがよかったんじゃないか?」
「いや、大丈夫だ。そのカタナは持ち主に呼応すると言っただろう? 何も大きさや形だけではない。剣が扱えるなら自然と動きがわかる不思議な武器だ。まあ、私にもその力は発揮されるのだが、どうにも物自体に力があることに慣れなくてな。私はこの剣を使っている」
「そうなのか」
はにかみながら言うエルディーはそうして剣を見せてくれる。
まあ、持ち主に合う剣にならずとも、エルディーの動きについてこれる剣ってだけで十分すごいと思うのだが。
しかし、今の口ぶりだと俺たちがもらった剣もがいいものなのだろう。
「それで、なぜ三本も同じような剣を持っているのかだったか」
「わたしわかったよ。レアだからでしょ? あとは買い手がないから。それと予備。このどれかでしょ?」
「いいえ。残念ですがどれも違います。私の師匠は世にも珍しいスキル、三刀流の使い手だからです」
「え。じゃあ、本気を出されてたら勝てなかったってこと?」
「使われていてもフェイラ様たちなら勝てていたでしょうね」
そういうわけか。
一流のものならコレクションということも考えられるが、どれもこれもが使われた形跡がある。
やはり、本気を出すならこの三本で向かってきていたのだろう。
一本だけでも武器がもたなかったのだ。勝てるかどうかは俺とフェイラが最初から本気を出すかどうかということになりそうだ。
少なくとも、同じようにやっていれば、河原に怪我をさせてしまっていただろうな。実際にはそうではなかったから、考える意味はないが。
しかし、腕二本で三本の剣をどのように扱うのだろうか。
「それでは目的地に向かうか」
三刀流のやり方を聞きそびれ、着いたのは、なんの変哲もなさそうな道具屋だろうか。
息抜きではなさそうだ。
カランカランと鈴の音を鳴らしドアを開けると、中には店主らしき黒髪に茶色いメッシュの入った女性が一人。
「いらっしゃい。おや、エルディー。今日はどういったご用件で?」
おおらかな雰囲気で親しげに話す様子から、オンケラさんと同じくエルディーの知り合いなのだとわかる。
動きやすそうな作業着姿の女性は笑顔で俺たちにも手を振ってくれた。
「へーロン。この三人の防具を見繕ってもらえないか? できるだけ動きに支障がなく軽くて丈夫なものがいいな」
「いつも思うけど条件が自分勝手だよね。まあ、そこがエルディーのいいところなんだけどさ」
へーロンと呼ばれた女性は、エルディーの注文をむしろ嬉しそうな笑顔で迎えると客のいない店内をうろうろと動き、パッパと商品を手に取るとホイホイと俺たちに渡してきた。
「いくらだ?」
「いつも色々と助かってるからね。お金はいらないよ。店に並んでる量産品でいいってことは急ぎのようだし、また来た時にオーダーメイドにでもしてくれるんでしょ?」
「話が早くて助かる」
「この私じゃないとエルディーの装備品は作れないからね」
「その時は頼む。三人ともあそこでつけていってくれ」
試着室のような場所に入り装備をつける。
じゃっかん重いが体感としては冬服と夏服の違いくらいで慣れてしまえば大差ないような感覚だ。
鉄っぽい見た目の割によほど軽い。
全員新たな装備をつけ、エルディーのチェックも終わり、俺たちはへーロンさんに頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ありがとな」
「はーい。困ったことがあればお姉さんに言うんだよ?」
「……? はい」
なんだろう急に。
「よし、それじゃあ」
「お兄さん。私のパーティに入らない?」
「いえ、私よ!」
店を出た途端、エルディーが何かを言いかけたところで、知らない女性が俺の手を取ってスカウトしてきた。
しかも二人も。
いや、俺たちを取り囲んでいる人は二人だけじゃない。
「やべっ、フード忘れてた」
新しい装備を着けたことでフードを忘れて店を出てしまった。
溺愛の権能は極力使わないよう意識していたが、どちらかといえば顔が隠れていたのが大きかったようだ。
「なんだ!? この街にはこれほど女性冒険者はいないはずだが」
「あたし! あたしのところは?」
「わたちのお兄ちゃんになってくだちゃい!」
「俺のパーティ! に!」
男にはやはり少し聞きづらいらしくで集まってきている人たちは主に女性。
まあある種、これは俺の課題か。
だが、人相手にもバッチリ効くことはわかった。
「溝口。離れよ」
「ああ。フェイラ、何か対処法はないか?」
「何か別のものに興味を移せばいいと思うよ」
「タイルを愛せ。よし、行くぞエルディー」
「あ、ああ。一体なんだったんだ……」
混乱で状況を理解していないエルディーを引っ張り、俺たちは地面に求婚する人々から逃げた。
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