第23話 剣を教わろう
エルディーにまだ時間があるとのことだったので、ティシュラさんに要望を出して訓練場を作ってもらった。
相変わらずの早さである。あっという間にできてしまった。それはあっという間だった。
そもそも山だし、その辺を走るだけでも足腰のトレーニングには良さそうだが、身を守るための剣術を軽く見てくれるとのことで、剣術の訓練場を作ってもらった。
ついでに、剣も一緒に作ってもらい、河原、フェイラとともに見てもらうこととなった。
剣はエルディーが感動していたのでいいものなはずだ。
「はい! はい!」
とりあえず、素振りを見てもらっているが、エルディーは厳しい顔をしている。
スキルもないし、剣道もしたことがないからなんとなくイメージでやっているが、やはりそこまでか。
河原も経験がないらしいし全員ド素人だろう。
良し悪しが全くわからないが、エルディーから見てどうなんだろう。
「ほっ……この実力なら仮に報告しなかったとしても問題はあるまい」
え、なんか明らかにほっとしたんだが、なんでだ?
「もういいぞ」
いや、今度は優しい笑顔になった。
「二人ともスキルもなければ特段技能もないな。フェイラ様も神様ですので、素振りは速いですが平凡でした。正直なところ、どうして生き残れたのか不思議で仕方ない取り合わせなのですが、フェイラ様がいるのであれば納得できます」
フェイラへの信頼厚すぎじゃない?
「すごいのはリュウヤだよ」
「そうでしたね。フェイラ様が特別に目をかけている者でした」
詳細は言っていないが俺を立てていることになっている。まあ、態度でバレバレなのだが。
しかし、俺の凄さの大元はフェイラの力だ。
でも、あんまし役立ってる実感ないんだよな。河原に指摘されたように俺が動揺しやすくなったくらいで、溺愛の権能って使えてるのか?
ゴブリンにも襲われかけたし、エルディーにも効いてる様子ないし。
「では、リュウヤ、こちらへ」
「え?」
俺の間抜けな返事に小首を傾げながら、エルディーは左手を横に出してここに来いと示してくる。
なんだろう、神の寵愛を受けていることへの嫉妬だろうか。
まあ、エルディーはそんな低俗な人物じゃない。さて、どうやら俺は剣の才能が人並みだったらしいけど、今から何が始まるのだろうか。
何も備えていなかった俺はエルディーの隣に立つと急に抱きついてきた。
「え!?」
「おい。逃げようとするな。今から教えるのだ」
「何を?」
「剣をだ」
まばたきが止まらない。
いや、抱きついて剣を教えるって何言ってんだろう。
「いいか? まずは持ち方からだ。剣はこう持つ。もちろんこれが完璧な答えなどとは言わない。だが、初めから自分流を目指そうとすれば失敗する。わかるか? ユキも同じようにやってくれ。フェイラ様もお願いします」
あ、あー。なるほど、そういうことか。いやー。びっくりした。
今は鎧を脱ぎ、ティシュラさんの作った服を着ているせいで、背中になんだか柔らかいものが当たっていて集中できないのだが、なるほど、持ち方ね。
いや、待って、何かが当たってるんだが? というか、息が吹きかかるような距離感なんだが? こんな距離で持ち方の指導? いや、前からでよくない? 見ながらでよくない?
「エルディー?」
「リュウヤ、集中しろ。二人を見ているからと言って、お前を手本としているのだ。一番近いのだからブレたらわかるに決まっているだろう。普段から意識の向け方、集中の仕方を身につけておかねば、実践で役に立たないぞ」
「はい」
「見込みがあるのだ。今はできていなくとも気を落とす必要はないからな」
「はい」
今まではただ、意識してこなかっただけで、俺は女性で動揺するらしい。
ここ最近色々ありすぎたせいだろう。あとは、溺愛の権能の他人を愛せるようになるとかいう部分も関係している気がする。
だが、エルディーさんは真面目だ。俺が心臓バックバクになっている間も重心をブラさず俺の構えを矯正してくれている。
俺は一度大きく深呼吸して、大人しくされるがままに剣を持つ。そのまま支えられながら剣を振る。
ダメだ。全く入ってこない。
体を密着させながら何かを教わったことなんてないのと、剣を振るのも初めてだから何にも集中できない。
「エルディーちゃん! リュウヤに近くない?」
「そ、そうだよ! 溝口だけ、おかしいよ!」
いいぞ、二人とも。
「ユキにフェイラ様まで一体何を言っているのです? 当たり前ではないですか。この中で男はリュウヤだけ。そして、まだまだ小さいながら組織を率い、将来性があるリュウヤが剣まで身につければよりいい男になる。これはフェイラ様のためでもあるのです」
「うー。確かに……」
え? そうか? 今の納得できる理由だったか?
「私もずっといられる訳ではないのです。フェイラ様のお力はわかりますが、リュウヤに自衛できる術があれば、より安全により快適に暮らせると思いませんか?」
「エルディーちゃんがそこまで言うなら仕方ないね」
「まあ、あたしより適任だろうし……」
おい、諦めるな二人とも!
「では、続けましょう」
そんな! 折れたの? 二人とも今ので説得されちゃったの?
エルディーさんもなんだかんだ言いながら、最初にほっとするほどのヘタレだから俺なのか?
「さあいくぞリュウヤ」
「はい」
俺はもう諦めて背後に当たる柔らかい感触も手に乗せられる手のしなやかさも首に息が当たるのもそして、剣の振り方にも集中して地上最強のエルディーさんからの指導を受けた。
少しは上手くなっただろう。そう思いたい。
なんだか体力以上に精神面で疲れた。
しかもヘトヘトになったことは見抜かれてたし、今日はもう休めと言われてしまったし、堂々と休もう。
しかし、同じだけ動いているはずだが、エルディーさんはまだ続けていた。
「エルディーさん、もうやめましょうよ。あれ?」
さっきまで剣舞のように一人でシャドー剣術をしていたエルディーさんがいなくなっていた。
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