第21話 エルディーは有名人
「ただいまー」
「おかえりリュウヤー。んー。久しぶり」
「朝やってただろ」
「どうだった? 何かあった?」
「何もなかったな」
帰ってくるなり俺に抱きついてくるフェイラ。
なんだか飼い犬がいればこんな感じなのだろうかと思うスキンシップだ。
正直、驚くようなことをされているが、最初にとんでもないことをされたせいか、普通に接することができる。
「嘘だー。何かあったでしょ? だって後に……ってその子は!?」
後ろにいるエルディーに真っ先に気づいたみたいだ。
「こちらはエルディー。俺をゴブリンから助けてくれたんだ」
「どうも、エルディーだ、いやです。あなた様はもしかしてフェイラ様ではありませんか?」
「あー。やっぱり? わかっちゃう? 見た目は違うんだけどな」
「我々がフェイラ様を見るのは見かけではありませんので」
エルディーが急にフェイラにひざまづいた。
なんだろう。ティシュラさんとフェイラに関してはどんなだったかわからなかったが、最高神というのは雰囲気だけでばれるものなのか。
というか、こんな山の中ではティシュラさんたちに信仰されてて、外にもしっかり信者がいるって、フェイラって案外すごいんだな。
しかし、エルディーがフェイラに驚くのはわかるが、フェイラがエルディーに驚くのはどういうことだ……?
道すがら自己紹介してもらった限り、一国の女騎士で頼りにされている存在ということはわかったのだが、その程度だった。
俺が知っているエルディーはポニーテールの赤髪に赤い瞳、そして肌も少し赤みがかった綺麗で強い女性ということだ。
確かに、見えないほどのスピードで動き、ゴブリンの首をはねるような強さを持っているが、女性は女性。
まあ、こういうことがフェイラを驚かせた訳じゃないんだろうけど、名乗る前から知ってるみたいだし。
「そういうあなたはエルディーちゃんだよね?」
「っ! アンタ! エルディーってやつじゃないかい?」
なぜか通りがかったティシュラさんまでも驚いた様子で首を突っ込んできた。
山まで名前が轟いているのはフェイラだけではなかったらしい。
「エルディー。有名人だったのか?」
「私はそんな大層なものではない。私はただのイルマット王国に所属する女騎士だ。有名なのはむしろ国の方。貴重な素材となる魔石の原産国だからな。それを元に成り立っていることでこの世界では知らない国はないのだろう。そんな国の騎士だからな。名が知られているんというだけだ」
「いや、有名な国の騎士だからってそうはならないだろう」
つまるところ、お金のある大きな国の騎士様でその中でも頼りにされている存在。
山に住んでても知っているような有名人で、実際に実力もあるようだった。
これって……。
「なあ、もしかしてエルディーがこの山の持ち主ってことか? それで、俺たちみたいなのがいることをどこかで知って調査に来たとか」
「それは違う。この山は誰かの山ではない、はずだ。私もさすがに断言はできないが、所有できるほどのものではない。今だって、フェイラ様に、そちらのあなたはおそらくオークの中でも上位種だろう?」
「まあ、この山でなんとか生き延びてきた弱小オークだけどね」
「ご謙遜を。このような強者がはびこる山を所有できるようなさらなる強者はいないだろう」
「エルディーちゃんが言うならそうなんだろうね」
どうやら、ここにいるのはみんなは名の知られた存在らしい。
無名は俺だけか。バシィたちもティシュラさんになんとか言われてた気がするし。
「なんにせよよかった。これでここに住むこと自体は心配ないわけだ」
本当に権利関係とか怖いからね。高校生じゃよくわからないしな。
となると、エルディーは修行に来たとかだろうか。
「リュウヤ。ちょっとこっち。エルディーちゃんは待ってて?」
「いいですが」
「え、なに?」
「いいから」
俺はズルズルと二人に引きずられてエルディーから距離を取らされた。
「リュウヤ。何が起きてるかわかってる? わたしの権能でその辺の女の子引っ掛けてきたのとは訳が違うよ? わたしは確かにリュウヤに愛する素晴らしさを知ってほしかったけど、これはちょっとびっくりだよ?」
「そうだね。フェイラ様の権能が与えられたんならおかしくないが、これは相当なことだ」
「いや、全然わからない。何が起きてるんだ?」
「エルディーちゃんはね、この地上で最強の存在なんだよ? スキル無効で戦闘を単純な戦闘能力だけの勝負にできるんだけど、身体能力も強化されてるから誰も勝てないの」
「インチキだな。でも、通りでバシィたちの結界も気にせずここまで来られたわけだ」
「そうだよ。わたしたち神様を除けば誰も敵わないの。すごいなんてもんじゃないんだから。知らない人はいないくらいの存在なんだよ?」
「そうさ。この山にいるアタイらのところまで情報が回ってくるからね。相当な実力者だよ。ふらっと外を出歩けるような人じゃないはずだ。そんな人がこの山に来たってことは何かがあったに違いないよ」
「そうなの?」
「「そう!」」
二人とも熱く語るけど、そんな風には見えなかった。
確かに強いのはわかる。どうやら、想像以上にすごい人だったみたいだ。
だが、俺には少し強い女性くらいにしか見えなかった。
「この山に何かあったんだとしたら、困っていたら協力すればいいだろ? そうじゃないなら、休ませてあげればいいんじゃないか? どうせ、外に行ったって、俺たちに居場所はないだろうし」
「確かに、エルディーちゃんが来ているからって何かあると決まった訳じゃないしね」
「それもそうだね。アタイも決めつけすぎてたよ。リュウヤの冷静さには感心するね。大した男だ」
「俺はそんなすごい人間じゃないさ。エルディーがただの優しい女性ってだけだよ。あんまりはやし立てるのも良くないだろうしさ」
「確かに、ティシュラちゃんの敬意も嬉しいけど、リュウヤに女の子として扱ってもらえるのもわたしは好きだよ?」
「なんの話だ」
まあ、だからこそエルディーも砕けた接し方を望んでいたんだろうしな。
「じゃあ、決まりってことで、あんまりお客さんを一人にするもんじゃない。あとで助けてもらったお返しとしてもてなしもしないとな」
二人とうなずき合い俺はエルディーのところへ戻った。
「待たせたな。それじゃ、案内するよ」
「よろしく頼む」
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