第19話 稼ぎ口:枝口視点

「はあ、にしてもどうして僕が雇われ衛兵なんかしてるんだ……。こんな野蛮なこと僕の仕事じゃないはずなのに……」

「全くだな。こればっかりは枝口に同感だ。俺様のやることじゃない。が、金がいる。稼げるんだろ?」

「だとしても、そもそもアタシたちへの扱いが間違ってるのよ。何? あの女。姫だかなんだか知らないけど、ふざけすぎじゃないの?」

「何か言ったか貴様ら」

「いえ」


 ここはイルマット王国。僕たちが召喚されたクニハイヒ王国の隣国だ。目の前にいるのはここイルマット王国の国王イルマット・テライーン様。

 どうしてここにいるのか。それは金が必要だから。

 弱そうな兵士を脅して仕事口を紹介してもらいたどり着いたところだ。

 なんでも、この国の主要な防衛力が一次的に外へ出ているため、臨時の要員として人を探しているということだった。そこで、僕たちの実力を高く買ってもらった形だ。


 知り合いがいるとのことでこんなことを聞いたらしい。そいつに、攻めればいいじゃないかと言ったが、そんな余裕はないとのこと。もし攻めても外へ出ているという謎の防衛力が牙を剥き、むしろ魔王よりも恐ろしいほどの活躍で一日もかからずに国が滅ぶとか頭のおかしなことを言っていた。

 そんな次元の違う兵器みたいな防衛力なんて簡単に動かしたりできないだろうと思うのだが、まあ、そういうことになっているようだ。

 まあ、攻めないのは友好関係にあるというのが大きいのだろう。


 じゃあ、僕たちがいなくなればクニハイヒ王国の防衛がどうなるんだ。という話だが、そんなのどうなろうと知ったことではない。

 自分で稼げと言ったのはあの姫さんの方だ。僕たちがいなくて困るなら困ればいい。


「イルマット王。万全に仕事をするため、一応聞いておきますが、そもそもどうして強力な戦力を外になんて出したんです?」

「死の山に人が現れたという知らせがあったからだな。その後、一際強力な力が死の山に現れたという話が起きた。そこで、誰かが何かを隠れて召喚したのではないかという疑いが立った。そのため、もし牙を剥かれたらたまらないから先に手を打とうということだ」

「なるほど。頭は潰すに限るからな。王様もわかってんな」

「当たり前だ。お主こそ見所があるな」


 えー。そういうタイプの王様か?

 脳筋か。いや、いかにもって感じだもんな。ここに来たのは失敗だったか。


「……しかし、溝口に河原はますます苦しいって訳か。あいつらは何か馬鹿にしてるような態度だった気がしたからな。言い様だ」

「二人は死んだんじゃないの?」

「そうさ。その死の山でね」

「クニハイヒ王国は残酷なことをするな。となると見た人というのはその二人か? では、その後に現れた方は……?」

「そこまではわかりません」

「まあ、調査に行かせてある。大丈夫だろう」


 そんなに警戒するものなのか?

 放っておいてもいい場所じゃないのだろうか。


「アタシ、雪が嫌いだったのよ」

「確かに溝口も気に食わないやつだった」


 こっちはこっちで悪口合戦が始まってる。

 あんな表面上仲良くしてるように見えた河原と大槻さんも形だけだったのか。

 異世界に来てからはこんなものか。女の友情ってのは怖いな。

 そういえば、女はこの場所に大槻さんだけじゃないな。ロリコンジジイか孫大好きジジイか。


「それで、そこの女の子は?」

「こいつは今話した戦力の妹だ。こんなやつのために働いてくれてるのさ。そうだろう?」

「……」

「おい。このワシが聞いてるのだ! 答えろ!」

「……はい」


 完全に怯えた様子で微かに声を漏らした赤髪の少女。

 気の毒だが、僕には関係のないことだ。飛び抜けた戦力になるような存在の妹に生まれた不幸を呪うことだな。

 まあ、ロリコン脳筋ジジイかと思ったが、脅しで動かしているようだし思っていたよりは頭が使えるのかもしれない。

 僕たちもいなくても大丈夫だろうとはしないでクニハイヒ王国とは違い、金を払って雇っているのだし。

 それでも人間を戦争の道具扱いとは、どの国もやることは同じなんだな。


「……」


 少女は先ほど叩かれたことがこたえたのか、恐怖から震えているように見える。


「このガキ、頭はいいから使ってやってるのさ。なあ?」

「……はい…………」


 今度は比較的早くにか細い声で答えた。


「使えるものはなんでも使うということですね。素晴らしいと思います」

「そういうことだ」


 まあ、こんな子どもを王様の側近にするほどの賢さはないと思うけどな。


「貴様らも活躍次第では給金を増やしてやろう。待遇の改善も考えてやらんでもない」

「本当か?」

「ああ、だが、活躍次第だがな。逆に実力がなければ、今の態度も不敬とみなし首を切り落とす。どうなるかは全て貴様ら次第だ。せいぜい頑張ることだな」


 ヒヤリとしたのか、首を撫でる山垣くん。

 こうして僕たちがおっさんの顔色をうかがって護衛をすることになった。活躍もクソもない。


 初めて戦場に出てから、僕たちはまともな生活もできていない。

 僕たちですらこんなで、死の山には脅威も迫っているようだし、溝口たちはどんな死に方をしているのかな。

 直に見れないのが残念でならない。

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