第18話 戦場へ:枝口視点

「……全然、切れない! これ、本当に戦わせる気あるのか……?」


 与えられた訓練用の剣。刃こぼれどころか素材が人に当たってもいい素材でできているからか、その辺の草すらまともに切れない。

 二刀流のスキルがあるから切れているが、こんなの絶対に待遇としておかしい。

 さすがの僕でも我慢ならない。


「頼みにしてますよ。ヤマガキ様、オオツキ様、エダグチ様」

「ああ」

「やるだけやるわ」

「……わかってます」


 この二人のトンチンカンは武器のしょぼさを理解していないのか文句すら言わない。

 鑑定スキルがないから物の良し悪しがわからないのだろう。

 気楽でいいよな。

 こうなったら時間稼ぎでもしてもらわないとな。


「いいか? グズどもは僕の盾になれよ? そういうスキルだったやつもいるはずだろ? 主戦力である僕を守るんだよ!」

「なんで枝口なんかのこと守らなきゃいけないんだよ」

「本当だよ。自分の身は自分で守れよ」

「自称最強のくせにビビってやんの」


 全く、今の優先順位がわかっていない……。これは遠足じゃないんだ。もっと戦略を練るべきだというのに……。

 仕方ないか。軍師みたいなやつは一人もいないハズレクラスだったからな。




 全くまとまることなく戦線へ駆り出されてしまった。

 基本的に僕たちの仕事は防衛戦らしい。僕たちに実力があるにも関わらず、攻めるほどの道具を持ち合わせていないことからもその理由は明らかだろう。

 まあ、集団で蹂躙するパートだ。たとえ道具がしょぼくても活躍してしまう僕たち。不安要素は取り除いてあるし気を楽にしていこう。

 相手が魔物やら魔族やらとはいえ、攻めてきているというのなら全力で殲滅するのみ。


「いや、なんだあれ? 能力が高い? 雑魚じゃないな?」


 僕の鑑定スキルは遠くからでも使える。

 敵が砂粒程度に見え始めた頃から鑑定が始まっている。

 だが、ただの剣士やら戦士という城の中でもありがちだったスキルのやつらは見つからない。

 代わりに、相手はどいつもこいつも僕たち転移者と同じくらいのスキルを持った女の集まりらしい。


「マジか……」


 鑑定していたらもうすぐ近くまで来ている。


「いくぞおおお! ここで助けてもらった借りを返すんだ!」

「そうよ! なんとしてでも国に貢献するの!」

「おおおおお!」

「いくぞおおおおお!」

「おい!」


 僕の声も聞かずにバカみたいに走っていくやつら。

 山垣くんも大槻さんも僕より人望があるから無謀に全員走らせやがった。

 まあ、訓練もしたし大丈夫か。


「う、うわあああああ!」

「効かない! 俺のスキルが通用しない。あああああ!」

「ま、まって、待って!」


 僕の思考は楽観的すぎたことがすぐにわかった。

 適材適所。配置も戦力の出し方もまるで考えていない全員での突貫。相手の能力も把握していない素人による突っ込み。

 なぶられているのは僕たちの方。スキルはこちらの方がギリギリ上のはずだが、圧倒的に実践経験が足りていない。


「くそ! もうこっちまで。こんな時こそ僕が冷静に状況を把握しなくてはいけないというのに」


 やはり、二刀流のスキルを使っても、なんとか相手の動きを鈍らせられる程度。

 鑑定があるから、相手が何をしてくるのかある程度予想がつくが、それでも、僕自身でさえスキルに引っ張られて動きを補強してもらわないと戦えない。元の身体能力がないせいで防戦一方だ。


「おいおいおいおい! どうしたお前ら! ビビってんのか?」

「うふふ。彼らは情けないわね。それに比べて山垣くんは」

「あったりまえだ! お前ら、情けないぞ!」

「負けてたまるか!」

「死にたくない!」

「くそう! くそう!」


 山垣くんや大槻さんの言葉で多少士気は上がったみたいだが、それでも実力の差は埋まらない。


「あいつらは僕の引き立て役なんだ。それなのに、そんじょそこらのチートじゃ敵わない。ならば、僕の活躍が映えるってことのはずなのにぃ!」


 僕は必死に剣を振った。振って振って。なんとか、戦場で立っていた。




 この国は攻めてるんじゃない。攻められている。そう実感させられ、僕たちにとっての初戦は終わった。

 僕の鑑定で上位だとわかっていたスキルを持つ数人程度しか今城には戻ってきていない。

 残りの人たちは全員帰ってこなかった。


 僕だって危なかった。なんとかギリギリ、訓練で身につけたスキル全てを使ってやっとだった。


「おい! 姫さんよ! こいつはどういうことだ? 俺様たちは素晴らしい能力を持つ英雄じゃねえのかよ! 三分の一も残ってねぇぞ! それにこの飯! 今までとは明らかに質が落ちてるよな!」


「ヤマガキ様の言う通り、皆様は英雄です。英雄ですが、相手は亜神と言われています。仮にその話が本当なら、格落ちしたとは言え元は神。そんな存在が魔王になった者です。いかに優れた英雄と言えど、油断すれば危ない相手です。ワタクシは散々そのことを伝え、訓練の時には指導するために色々な方を用意しました。ですが、皆さんは好きなように練習をされていました。今はその結果としか言えません」


「なるほどな。俺様たちが訓練で手を抜いていた。それで人が死んだ。それは仕方ないかもしれない。まだわかる。元々死ぬところを助けられたんだからな。だが、飯がまずいのは話が別だろ? これはあんたらの手抜きじゃねぇか」

「いいえ? あなた方はもうお客人ではないのです。もてなしのための料理を振る舞う必要はないでしょう?」

「ふざけないで! そんな話聞いてないわ!」

「皆様は我々のために命をかけてくださるのではなかったのですか?」

「それは……」


 明らかに理不尽な手のひら返し。

 しかし、今日までいろいろと威勢のいいことを言ってきた手前、皆黙り込んでしまう。

 相手が命の恩人であるということも事実だ。

 だが、ここは言うべきだ。


「せめて武器は一級品を与えるべきでは? 王国の兵士は僕たちより優秀な武器を持っていますよね?」

「んだよ。俺様たちは捨て駒か?」

「……はあ」


 あからさまにため息をつく姫様。

 一瞬伏せた顔を上げると、今まで見たこともないような姫の失望したと言わんばかりの表情。


「ピーピーうるさいですね。欲しいものがあるなら自分で手にしてください。力はあるでしょう? それ以上必要なら今ある力でどうにかしてください。以上です。ワタクシは部屋に戻ります」

「おい! 待てよ! 話は終わってねえ! くそ!」


 扉の前に立つ護衛に道を阻まれる。

 ただの兵士の方に優秀な武器を与えているのは、僕たちを信用していないからだろう。


「どけ、くそ!」


 選ばれし勇者の山垣くんさえ通さない兵士。

 このことからもスキルや本人の経験。そして武器の総合力で言えば向こうが僕たちより上だとわかる。

 だが、こんなことをしてこの国は本当に生き残るつもりがあるのか?


 それになんだか不信感からかはじめほど姫に対し好意を持てない。


 くそ!

 ま、これでも山行きよりはマシか。

 稼いで武器を手にする分にはいいらしいしな。

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