第2話 スキル判明

 次々に判明していくクラスメイトたちの能力。


 どれも、この世界の住人では珍しい能力や強力な能力らしいが、この世界の住人ではない俺にはさっぱりだ。


「おおっ! 勇者様! 選ばれし勇者様です!」

「俺がですか?」


 さっきから借りてきた猫みたいな山垣が驚いたような顔をしている。


「はい。ヤマガキ様は選ばれし勇者です。このスキルは今まで数名しかいなかった勇者というスキルのより強力なもののはずです」

「おおー。そうなんですね」

「もっと喜んでください。ワタクシたちもものすごく嬉しいのですから」

「はい!」


 山垣たちがそんなやりとりをする後ろで、彼氏が女と仲良くしているからか不機嫌そうにしている大槻。


「次はあなたですね。なっ! あなたは選ばれし聖女! 出会うべき二人がこんなすぐに出会うなんて!」

「出会うべき?」

「そうです。選ばれし勇者と選ばれし聖女。この二つのスキルは、勇者と聖女がそうであったように二人揃うことでものすごい力を発揮するはずですよ!」

「へー。二人で」

「お二人とももっと喜んでください。素晴らしいことなのですよ?」

「いやー。そう言われても。なあ?」

「そうね。あんまり実感が湧かないって言うか」

「そうですね。無理もありません。これからスキルに慣れていってもらえれば大丈夫ですから」


 二人して満更でもなさそうにニマニマしながら戻ってきた。


「うっ」

「きゃっ。ああっ!」


 山垣は明らかに俺に肩をぶつけてきた。さらに、俺だけでなく後ろに並んでいた河原雪にまでぶつかっていた。


「すまん。大丈夫か?」

「うん」

「おい、山垣。黙って行くな」

「あん? んだよ溝口、話しかけんなっつったよな!」


 山垣は、今度は肩ではなく手を出して俺を突き飛ばしてきた。

 軽く押されただけのはずが、気づくと俺は床に背中を打ちつけていた。


「痛っ」

「んだよ。なに大袈裟にこけてんだよ。早く立てよ。俺様が悪いみたいだろ」

「大二やりすぎー」

「ははっ。悪い悪い」

「なに笑ってんだよ。俺はいいから河原に謝れよ」

「え」


 俺の言葉に驚く様子の河原雪かわはらゆき

 河原と普段仲良くしているはずの山垣と大槻だが、彼女を見ても悪びれるそぶりすらしない。


「物落としてるだろ」

「お前で見えねーっての。ごめんなさーい。これでいいか? 俺様は選ばれし勇者なんだ。これからはゼッテー話しかけてくんなよ」

「ごめんねー。それじゃ」


 なにやらケタケタと笑いながら山垣と大槻は列の後ろの方へと去っていった。

 そもそも河原は山垣や大槻と同じグループだったはずだが、どうしてこんなところに並んでいるんだ?

 並び損ねたのか?

 それに、今の反応。仲がいいわけでもないのか?


「大丈夫か?」


 遅れながら、俺は慌てて河原が落としたものを拾おうとする。


「これって……」

「返して!」

「わ、悪い。意外でな」


 拾いつつ、じっくり見てしまってひったくられた。

 河原は山垣や大槻と一緒にいる派手なグループの女の子。そんな彼女が漫画を持っているなんて、正直イメージと違った。


「いいでしょ。あたしが何を好きでも」

「好きなことを好きと言えるのはいいことだと思うぞ」

「はっ!? 急に何言ってんの!?」

「思ったことを言っただけだ」


 と言っても、河原の様子じゃ、また失敗したのだろうな。

 俺は人と積極的に関わらない。だからこそ話した時に場の空気を悪くしてしまう。

 山垣にもそのことが原因で話しかけてくるなと言われていた。


「不快にしたなら、忘れてくれ。って無理だよな。すまない」

「別にそういう訳じゃ」

「なーにを座り込んでいるのかな? 通れなくて邪魔なんだが」

「悪い」


 こいつは枝口小太郎えだぐちこたろう。クラスでは一人でいることが多く、他のやつから浮いた存在。

 もっとビクビクしているやつだったが、雰囲気が変わったか?


「先、行くよ。いいね?」

「ああ。いいよ。まだ河原の持ち物拾い終わってないしな」

「いいよ。ありがと拾ってくれて。先行きなよ」

「隠してるってことはあんまり知られてくないんだろ。今も見られなかったが、あんまりダラダラしてるとわからない。俺は一度見てしまったし、俺がいた方が壁になる」

「バッカみたい」


 やるなと言わないってことは、これでいいのだろうか。

 俺は黙って河原の持ち物を拾っていく。チラホラとカバンも持ってくることができた生徒もいるみたいだが、俺はないんだよな。

 などと考えていると、パッと今までで一番まばゆく部屋が輝きに包まれた。


「まさか。二つも才能が!? こんなこと今までありませんでしたよ!」

「二刀流! 鑑定! これは勝った! 完全に僕の時代だ!」


 枝口が何やらいいスキルに目覚めたらしい。

 お姫様が興奮気味に枝口の手を取りながら話している。


「素晴らしいです。是非とも我々にご協力を!」

「もちろんですとも。この僕、いやこの僕たちが、命を救ってくれたお国のために、誠心誠意働かせてもらいます!」

「ありがとうございます! 心意気まで素晴らしいなんて」

「ふっふっふ。そんなことないですよ」


 またしても何かに浸りながら枝口が歩いてきた。


「いやぁ素晴らしい力。あんな美少女もいずれは僕のハーレムに……君たち。まだ座り込んでるの?」

「今立つところだよ」

「ふーん。ふふ。そうだ。ねえ君たち。僕の奴隷にならない?」

「は?」

「何言ってんの?」


 こいつ、スキルに目覚めた途端に何を口走ってるんだ?


「そのままの意味だよ。僕の奴隷。なんでも言うことを聞く存在にならないかって聞いてるの。いい話だと思うよ?」

「あり得ない。キモいんですけど」

「俺もお断りだ」

「あっそ。河原は別だが、初めから君の方は頼んでも断るつもりだよ。じゃ、好きにすれば。能無しどもは僕に媚びてればいいのにさ」


「何、あいつ」


 全くもって河原と同意見だが、枝口は正直あんなやつじゃなかった気がする。

 いいスキルに目覚めたらしいし、そのせいで調子に乗っているのか?


「あ、拾ってくれてありがとね、溝口くん」

「おう」


 河原、俺の名前覚えてたのか。


「あの、お次の方」

「はい。それじゃ」

「うん」


 そういえば、俺はまだ何も確かめていないのに、能無しとはどういうことだ?

 ま、そんなことより、河原が俺の名前を覚えてたことの方が驚きだな。

 まあ、さっきは事故で少し話したが、今後はこんなこともないだろうがな。どうせ、あの山垣たちのグループで重宝されるのだろうし。


「それではよろしいですか?」

「はい。どうぞ」


 俺はお姫様が持った鏡の前に立つ。

 腰から上が映るその鏡は、ただ俺の体を映すだけ。光ることもなければ、何か別のものが映ることもない。


「お次の方は、え、あれ? ない……? そんなはずは……」

「どういうことです?」

「いえ、その、これは神のいたずら? いや、そんなことは……」


 混乱しながらも鏡と俺を見比べるお姫様。しばらくするとその目はスッと細められ俺を冷たく見つめた。

 まだ、この人は何も言っていないというのに、俺の背中にはクラスメイトたちからの笑い声が投げかけられる。


「マジかよ。あいつ」

「嘘でしょ?」

「孤高ぶってるくせに」


「残念ですが、あなたにはなんの才能もありません」


 俺には、才能がない……?

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