クラス転移でハズレスキルすら出なかった俺、山に捨てられる〜実はここまで俺を独占したい女神の計画通りらしく、スキルを超える『溺愛』の権能を与えられたので、悠々自適に暮らします!〜
川野マグロ(マグローK)
第1話 転移
「ここは……?」
気づくと俺は見知らぬ建物の中にいた。
「嘘、どこここっ!?」
「なんだ? なんだってんだ!?」
「まさか、まさか……」
いや、俺だけじゃない。一緒に教室で授業を受けていたはずのクラスメイトたちの姿もある。
だが、そうだ。俺たちは教室で授業を受けていたはず。こんな知らない建物の中にいるはずがない。
明らかに前後のつながりがおかしいが、どういうわけか俺たちは見知らぬ場所に移動している。
「ここどこだよ!」
「あなたたちは誰?」
「一体何が起きているんだ!?」
「みんな少し落ち着こう」
「これは、もしや……?」
皆が皆、落ち着きもなく騒ぎ立てている。混乱している様子で仲のよかった者同士現状を確かめ合っているようだが、俺にはそんなことをする相手はいない。
クラスの人気者に会話に入るなと言われるようなぼっちだからな。
ただ、一人で周りを観察するだけだ。
さて、映画やゲームで見るようなきらびやかな装飾の内装に甲冑姿の兵士たち、そして、何より目を引くのは玉座に座る王とその前に立つこの世のものとは思えないほどの美しさを持つ少女だろうか。
一度、深呼吸しよう。
俺は
周りも好き勝手に騒いでいるが混乱しているのだろう。ここに来るまでに何があったのか、冷静に思い出せば、
「皆さん、落ち着いてください!」
先ほど見た少女が一際大きな声で叫んだ。
反射的に、そんなこと言われて落ち着けるか! という思考が思い浮かぶが、何故か不思議と心が落ち着いてしまう。
ざわめいていたクラスメイトたちも全員が黙って少女の方を見ている。
なんとも言えない違和感があるが、俺もおとなしく少女を見た。
「ありがとうございます。ワタクシはクニハイヒ王国第一王女クニハイヒ・リンゼシーと申します。皆さんを異世界よりこの場に召喚したのはワタクシです」
そう言うとティアラを被った金髪碧眼の少女は俺たちをじっと見つめてくる。
学級委員であり、俺に話すなと言った、学級委員の
やはり、何かがおかしい。
「皆さんを召喚したのは他でもありません。この国を魔王国の魔の手から救っていただきたいのです」
お姫様は悲痛そうな声に何故かフィクションの感動シーンを見た時のようにじーんと胸に響くものを感じる。
先ほどから気分が悪い。感情を誘導されているような違和感がある。
「あの、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう」
誰に対しても不躾な態度を取る山垣が形だけでも敬語を使っている。普段オラオラしてる男が落ち着いているのを見るとやはり、何かあると思わざるを得ない。
「救ってくれって言ってますけど、そんな義理ないんで返してくれませんか?」
「返してもいいですが、本当に帰りたいですか?」
「いや、その、確認つーか。え、帰れるんですか?」
「ええ、帰れますよ」
辺りに嬉しそうなクラスメイトたち声が響く。
確かに日常に帰れるなら嬉しいだろうな。だが、
「皆さんのご記憶通りの場所に帰ることになりますが、本当によろしいですか?」
続くお姫様の言葉に場が静まり返る。
お姫様の言う通り、記憶にある場所には俺も帰りたくない。
振り返ってみたが、俺たちは本来死んでいるはずなのだ。
授業中、突然爆発した校舎。その瓦礫が降ってくる、まさにそんな時に爆発とは違う白い光に包まれ、俺たちは今ここにいる。
つまり、戻った場合、俺たちは瓦礫に潰される。ただそれだけを経験して死ぬ。つまり、もう死んでいると言ってもいい。戻っても、潰された状態の死体になるだけだ。
その場にいたはずの先生がここにいないのは助かったのか、それとも……。
「そうですよね。皆さんはご記憶にある通り、大変痛ましいですがお亡くなりになられた若者です。何も未来のある方々の未来を奪う話ではなく、この先があったかもしれない方々に未来を提供し、代わりに協力していただきたいのです」
まあ、これだと俺たちにも利があって、ウィンウィンに聞こえるな。
「そうは言うけど、アタシたちに国をどーこーする力はないと思うけど? アタシたちってただの高校生だし」
山垣の彼女と言われている
同性だからか、少しトゲがあるが、やはり話し方がいつもよりは優しめな気がする。
「コーコーセーというものがどのようなものか分かりかねるのですが、ご安心ください。皆様方には眠れる輝かしい才能があります。それを今から目覚めさせていくのです。今、力がなくとも問題はありません。これからその力、またの名をスキルに目覚めるのです。なので、そのお力をお貸しいただけますでしょうか?」
「まあ、そういうことなら」
大槻は納得したようだ。
「俺さ、いや、俺もいいですよ」
「二人がいいなら」
「私も」
「僕だって」
二人に続けとばかりに、他のクラスメイトたちも頷いている。
力、今の状況はお姫様のスキルとやらのせいな気がしてならないが、本当にいいのか?
今のところ反抗する力もない以上、言う通りにするしかないが。
「ありがとうございます。では皆さん列になって並んでいただけますか? 順番にスキルを目覚めさせていきます」
やはり、お姫様の言葉で体が勝手に動いていく。
なんだか、俺たちに都合がいい頼みな気がするのだが、本当に乗って大丈夫なのか?
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