第5話

二十五日間の夏休みが終わり二週間が経った九月。その日はどことなく優越感を覚えるような曇り空の下だった。

二時限目の保険体育の授業が始まり私が受け持つ教室へ着くと生徒たちがまばらに立ち話をしていたので席に着くように促した。チャイムが鳴り終わり私は早速教科書を開くように言い今日の課題について話し始めた。


「今日の授業は先週の続きから。教科書を開いてください……生涯における健康について。その中の一過程で将来的に家庭を持つことになった時の責任の管理をどうしていくかについて話していく。皆は結婚をして子供を持ちたいと思う人はこの中にどのくらいいるかな。手を挙げてみて?」


生徒たちはそわそわした気持ちを持っていたが、その質問に対してやや半数の手が上がる。


「その中で大事になってくるのは相手同士の性行為における精子が卵子に受精し、女性の子宮に着床した後の経過。……特に女性は妊娠周期の過程においての体調管理の責任が大きい負担となってくる。そこでだ。お腹の中の赤ちゃんにどう負担がかからないようにすれば安産として無事に生まれてくるかを皆で考えて欲しい。今持っている用紙を順に後ろの人に回してくれ。……全員渡ったか?……それじゃあ今から三十分間その用紙に自分たちの考えを書いていってほしい。教科書にもある程度記載はあるがおのおのの個人の考えを元に次の授業で発表する。いいな?」


クラスの生徒が軽くざわついたので話さずに課題に取り組むように伝えた。その後終業時間が近づき回答用紙を全て集めて、ある男子生徒が全く書けなかったと私に告げると、次の授業のトップバッターとして指名するからそれまでに考えてノートにまとめるようにと促すと、生徒たちは笑い声を出していた。


教室から出ようとした時、望月が私に声をかけてきて、メモ紙を渡してきた。その後職員室の座席に着くとメモを広げて見ると、今週の土曜日に私の自宅に勉強をしに行きたいと言い、時間は昼食後の十三時頃。自転車で家に向かうと言う伝言が書いてあった。ホームルームの終わった後、再び望月に声をかけて、えっと家に来てもいいと伝えると微笑んでいた。


そして約束の土曜日の午後。彼女はあらかじめ買ってきた菓子やジュースの入った手提げ袋を持ってきて、私の自宅に上がっていった。こうして二人きりになるといつもの部屋も空気の色を変えて視界を海霧のように壁の全面まで立ち込めていく。

どうしてもあの言葉が浮かびその言い放った二文字の漢字が目の前でカラカラと音を立てて糸で操られるように浮遊して見える。望月はテーブル席の椅子に座って菓子の袋を開け私の方に身体を向けながら食べている。


グラスを使うかと問うと貸して欲しいと言い、手渡しするとジュースをグラスに注いでいく。すると不意に彼女は会話をし出した。


「この間、先生の精子が欲しいって言った話、考えてくれた?」

「考えた。僕らは今の段階ではその行程に至らなくてもいい間柄だ……つまり、その前に望月が僕に恋愛以上の感情を抱いているんじゃないかと思ってさ……」

「それも当たっている」

「……なぜ他の男性じゃなくて、僕を選んだんだ?」

「先生は保健体育の専門。身体の仕組みをよく知っている。授業を聞いているうちに、興味を持った。だから、実験をして本当に子供ができるかどうか調べてみたい。」

「今妊娠を求めても君の重圧は計り知れない事になる。それ以外にもっとやりたい事だってあるだろう?仮に、子供ができたとしても、望月はその年齢の状態で自分の身体に大きな負担をかけてしまうことがある。とにかく大事にしてほしいから、むやみに傷をつける事はして欲しくない。」

「構わない。今すぐ裸になってもいいよ」

「あのな……実験と言うのは、仕組みを知るための手段。そんな恐ろしいことを考えるのは、この世に人間だけだ。道具として身体を使うのはよせ。なんせ女性だ。そんなことを考えないでほしいよ……」

「そう言ってるけど、一度でもいいから、私の身体の仕組み、知りたくない?」


私の海馬が指令を出す。お前は彼女に触れれば破壊するぞと危機を下している。そうだ。彼女だけじゃなく、生徒たちの未来をもだ。この時点で私は教員として失格だ。

──それでいて彼女の口から次々に溢れていく言葉たちを拾いながらその身に触れたいと雄として腹の底から野望を抱いている。自我を抑えたくても本性がうずき出す。


「……君を知りたいよ。」

「本当?……」

「俺は卑猥な人間かもしれないが、個人としては君の裸を見てみれば、納得するかもしれない」

「じゃあ、脱ぐよ」

「……下着は付けていなさい。あくまでも芸術観点として一時に見せてもらうだけにする」

「気に入ったら、触っても良いよ」


この時に見た彼女の身体は雪膚せっぷした肌が脱いだ制服から露わになり、視界に入った瞬間に自制心が潰れてしまうほど身を委ねてみたいと感じてしまった。彼女は手を差し出し、私はその手の甲に唇に触れて頬ですり寄せた後、彼女の背に対して座り込み、キャミソールの上から背筋を指でなぞるように触れていき、肩紐を外してしなやかに浮き出る肩や肩甲骨に見惚れつつ抱きしめた。


「悪いが今、正気じゃなくなってきている」

「うん」

「……あちこち触っていくよ?」

「うん。」


彼女の顔に自分の顔をくっついたまま首筋から乳房を触り、下腹部の下着の中の隠部や尻、太ももからふくはぎ、足の指先まで触れていくと、彼女も目を瞑り始め私の指先の感触に鳥肌を立てながら淫靡に浸っていた。お互いに向かい合わせになると昂る思いと重ねながらキスを交わし始めた。

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