020 黒猪ブラックキングボア
「森の魔女様の話を聞いたことはあるか?」
「はい。この街を救ったという魔女様ですね」
「そうだ。あの時森の魔女様に倒された強個体、
「強個体の魔物……」
魔物の中でも特に強い個体の総称である『強個体』。
過去には強個体によって1つの街が壊滅したという話があるほどの危険な存在で 通常の魔物よりも段違いに強い。そして同種には見られない特性や固有の能力を持つことが多く、知能も高いため攻略は一筋縄ではいかない。魔物の種類にもよるが、金級冒険者以上でなければ討伐は困難とされている。
(ライ爺様が、もし遭遇するようなことがあればすぐに逃げろって言ってたっけ)
「ブラックキングボアも〈黒の魔核〉を持っていた。いま嬢ちゃんが持ってる魔核とは比較にならないほどどす黒くてでかい魔核をな」
当時の様子を知っているのか、男性はまるで見たことがあるかのように語る。
「あの黒猪襲撃以降、森の南にある国境には警備隊が常駐するようになった。それからはこの〈黒の魔核〉を持った魔物が現れることはなかったが……」
「何か不吉ですね」
ライカから〈黒の魔核〉を受け取りもう一度を眺めてみる。
濃い葡萄酒をそのまま固めたかのような見た目をしていて、魔核というよりも宝石のような印象だ。先程ブラックキングボアの〈黒の魔核〉はどす黒かったと言っていた。魔力量に比例して色の濃さの度合いが変わるとしたら、この魔核の持ち主であったブロンズボアは通常の個体とそれほど強さは変わりなかったのかもしれない。真っ黒な魔核を持つ魔物はどれほどの強さを秘めているのだろうか?
「ただ心配はいらん。今のタンダルなら大丈夫さ」
男性はこちらの不安の色を感じ取ったのか、爽やかな顔で笑いながら言う。
ブラックキングボアによって一度は壊滅の危機に瀕したタンダル。その時はのちに森の魔女様と呼ばれる魔法使いによって街の平穏が守られたが、守り神のような存在であった彼女はもうこの世にはいない。
その為国境付近を監視する警備隊の配置、タンダル警護隊の増員や練兵、街お抱えの若い冒険者の育成など、自衛の手段の強化を森の魔女様が健在だった時から着々と進めてきているそうだ。
「一応冒険者ギルドには連絡したから明日の朝にでも領主様に報告がいくだろう。もうあの時のようなことは起きないさ。……おっと、引き留めた上にすっかり話し込んでしまった。すまんな」
「いえ、貴重なお話が聞けて楽しかったです」
「その魔核、恐らくですが
解体屋を後にして、2人で宿屋『パルピー』へと戻る途中。肉を抱えたライカが、〈黒の魔核〉を見ながら口を開く。ちなみに報告に魔核はもう必要ないとのことなのでその場で受け取ってきた。
今はペンネの指先にあるその魔核。
空は既に朱に染まっており、夕日を浴びた魔核は紅く光り輝いている。
「私もそう思う。多分媒体としても使えるかな」
魔筆【
「消費が大きくて不完全になってた魔法も使えるかも。もっと数が集まれば気軽に試せるんだけどなぁ。もっと集めるには――」
「ペンネ様、ライ爺様に言われたことをお忘れではないですよね?」
「忘れてないよ。黒土の国には金級になるまで近づくな、でしょ?」
黒土の国の魔物が持つ〈黒の魔核〉を集めるには黒土の国へ行くのが一番早いが、ライ爺様に「少なくとも5年は経験を積んで強くなった上で金級になってから行くこと」と厳しく言われている。
強力な魔物が住みつくという黒土という特殊な環境もさることながら、弱者を嫌うという黒土の国の民の信頼を得るためには強くないといけないそうだ。弱い余所者は追い返されて街にすら入れてもらえないらしい。強力な魔物が蔓延る場所で野宿なんてしたくない。
「この貴重な1個で試すとして……何にしようかなぁ」
そんな事をぼんやりと考えながら歩いていると、不意に声をかけられた。
「おや、昨日のお嬢ちゃんじゃないか」
「あ、道具屋の店主さん」
昨日〈森の魔女様の薬〉を購入した道具屋の店主だ。周囲をちらりと見ると、道具屋の店の前まで戻っていたことに気付く。
「魔女様の娘さんがお嬢ちゃんのことを探していたけど、会えたかい?」
―――――――――――――――――――――――――――――――
よければフォロー&応援をお願いします。創作の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます