018 解体依頼と報酬の受領、違和感の確認
「晩にボアのお肉を食べたいのでこれぐらいの大きさに切り分けてもらえますか?」
「あいよ。夕方には準備しておく」
「魔核は受け取りで、残りの肉と素材は買い取りでお願いします」
「了解。金は明日の昼頃にまた来てくれ」
大きな木の担架に乗せられ門兵6人掛かりで運び込まれたブロンズボアは、今は解体屋にある大きな専用の机の上に乗せられている。
解体屋は討伐した魔物を解体してくれる冒険者ギルド直属の施設だ。肉や素材は受け取ることができる他、必要ない物は買い取りも行ってくれる。
このボアはこれからこの解体屋の男性の手によって解体されるのだろう。
「それにしてもいいボアだ、大物というには少し小ぶりだが状態は良いしそれなりの値段になるだろう」
ボアを触って確かめる男性の目は鋭い。
「それにしてもこいつをどうやって仕留めた?鼻が曲がってる以外には目立った外傷はないが……。いや、首に何か大きな傷跡があるな」
「魔法が首に直撃したんです。それが致命傷になりました」
運が良かったです、とライカが言う。
正しくは《
(でも、突進してくるボアにこちらも突撃しながら首を狙って手刀の一撃で仕留めただなんて言っても誰も信じてくれないだろうし)
そもそも言うつもりなどない。言ってしまえば無用な注目を浴びるか、あるいは笑い者にされるだけだ。ライカもそれを承知で嘘をついてくれている。
(それでも、ライカの強さを誰にも話せないのは嫌だな)
「ペンネ様?」
ライカに声を掛けられ我に返る。
「あーごめん、ちょっと考え事してた」
「一旦宿屋に戻りますか?」
「大丈夫、疲れてるわけではないからこのまま冒険者ギルドへ行こう」
道具を準備している男性に再度頭を下げて解体屋を後にする。
次は冒険者ギルドへと向かう。依頼達成の報告と例の違和感についての確認だ。
「緑草が30本とゴブリンの耳が15個。採取依頼と討伐依頼の達成を確認いたしました。また、報酬が上乗せされています。ご確認ください」
受付の女性から内訳書を受け取り確認する。
薬草採取は1件につき500ジェンドルで追加報酬が250ジェンドル。それが2件で計1500ジェンドル。
ゴブリン討伐は2000ジェンドル。追加報酬で1000ジェンドルが加わり3000ジェンドル。
全て合わせると4500ジェンドルとなる。
トレーに乗るジェンドル貨幣を確認する。1枚1000ジェンドルの銀板4枚と1枚100ジェンドルの銀貨5枚。合計4500ジェンドル。
手に取って問題がないことをもう1度確認し、貨幣用の布の袋にジェンドルを入れる。
「はい。確かに受け取りました」
「これにて依頼は終了です、お疲れ様でした。……あの、お怪我はありませんか?」
昨日冒険者ギルドを訪れた時も対応してくれた受付の女性が様子を伺うようにこちらを見ている。彼女は討伐依頼に同行すると言った際に心配してくれていた。
「はい、この通り大丈夫です」
両手を左右に上げて軽く力こぶを作るポーズをしてみせると女性は安堵の表情を作る。
「無事戻ってきて安心しました。今日はゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます。……あっ、お姉さん。確認したいことがあるんですけどいいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「タンダルの周辺の森って魔物の分布が偏ってたりしますか?」
「魔物の分布……ですか?」
「(ペンネ様、分布と言われてもあまりピンと来ないかもしれません)」
「あ。こほん、森の中を進んでいてもほとんど魔物に遭遇しなかったんですが、他の冒険者さんから似たような報告はないですか?」
「魔物と遭遇しない……そのような話は特に」
女性は少しの沈黙の後、何かを思い出したのか「あっ」と声を上げた。
「そういえば街の狩人がここ数日狩りの成果が良くないと言っていたような」
成果が良くないというのは獲物と遭遇しなかったか、または取り逃がしたかのどちらかだろう。
そういえば森では魔物以外の動物の気配を感じることもなかった。森というのは昨日訪れた南の森も含まれる。ペンネが生まれ育った大森林ではいつも周囲に動物や魔物の気配を感じていた。生物の気配を感じない森なんて有り得るのだろうか。
「そういえば野生の動物も見かけませんでした」
「魔物以外の動物も、ですか?今の時期はいつもだと森ネズミや茶ウサギの活動が活発なはずなんですが」
女性は少し驚いた表情をする。
例年とは森の様子が違うのだろうか。一昨日タンダルに来たばかりのペンネにはその変化に気付くことはできないのでこれ以上の推測は難しい。
「……分かりました。ありがとうございます」
「いえ、また何か気になることがあれば聞いてくださいね」
受付の女性に別れを告げ、冒険者ギルドを後にした。
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「ご苦労様。もう仕事には慣れたか」
「お疲れ様ですギルドマスター、はい今のところは順調です。先輩達がよくしてくれますし素行の悪い冒険者さんに当たったこともないので問題はない、はずです」
「それはよかった。もしそんな冒険者がいたらすぐに呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
「話は変わるが、今さっきのお嬢さんと何を話していたんだ?……あいや、盗み聞きをしていたわけではないんだ。しかし少し気になる話をしていたようだったのでね」
「お嬢さん、あぁペンネさんですね。森で魔物にほとんど遭遇しなかったことを気にしていました。タンダルの周辺の森は魔物が少ないのか、と」
「魔物が少ない?」
「はい、魔物だけではなく動物とも遭遇しなかったと言ってました」
「動物も?今の時期は至る所で森ネズミや茶ウサギがいるはずだが」
「ですよね。街の若い狩人も昨日通りかかった大広場の酒屋のテラスで成果が出ないと嘆きながら飲んでましたし、森で何かあったのでしょうか?」
「……」
「ギルドマスター?」
「――あぁ、すまない。考え事をしていた。他の冒険者にもこちらから声を掛けて聞いてみるよう他の者にも伝えておいてくれないか?異変や違和感のような物を森で感じなかったかどうか、どんな些細な事でもいい」
「えっ?……は、はいっ」
「少し確認したいことがあるから調べてくる。引き続き業務を頑張ってくれ、よろしく頼むよ」
「あっ、ありがとうございます……?」
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