015 雷(いかずち)の乙女

【side:ライカ】


「では、突貫します……!」

 

 一直線に向かってくるブロンズボアへ迫るように駆けて距離を詰める。

 ボアは特に狼狽える様子もなく、勢いそのままにこちらへ向かってくる。

 修行の日々の中で幾度となく対峙してきた魔物ではあるが、慢心はしない。

 突撃してくるボアと肉薄し、相対する魔物はその鋭い牙を突き立てんと顔を――。

「はぁッ!」

 顔を上げた瞬間、持ち上がったその鼻目掛けて右拳を真正面から叩きつける。

 殴り抜けるとボアはその巨体をくうへ浮かしながら後方へ吹き飛び、1回、2回と跳ねた後に地面に伏した。

 すぐに立ち上がってこないことを確認しつつボアを殴った右拳を見る。一度開いた後にぐっと握り込んでみても痛みは感じられない。

 そのまま両腕を前方に構え前方へ転がっていったボアを見据える。

(…ん?)

 立ち上がった魔物の体が震えている。

 呼吸も荒く、その血走った目はこちらを睨んではいるがどこか力がないように見える。

 今まで見てきたボアとは様子が違うと感じる。


「ライカ、来るよ…!」

 ペンネ様あるじの声の通り、ボアはその前脚を掻くように動かしている。ボアが渾身の突進を行う前によく行う予備動作だ。

 ふぅ、と軽く息を吐き脱力する。

 感じた違和感を無碍にはしたくないが、今は戦闘の最中である。いくら過去に何度も葬ってきた相手ボアであっても、油断すればあっけなく死ぬ。


 ボアがすぐに動き出す。耳障りな声を張り上げて向かってくる魔物は、先程と同じくこちらに一直線に突進してくる。

 それを視界にしっかりと捉え魔力をり、握った右拳を開き指を伸ばし魔力を右手に集める。

 そして魔物が間合いに入った瞬間に一気に距離を詰める。体の軸をずらして突進を交わし、がら空きとなったその首元に右手を振りかざす。

 雷の魔法を纏わせた手刀、主が最初に授けてくれた魔法。

「《雷鳴一刃らいめいいちじん》ッ!」





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