014 ゴブリン討伐と魔核の回収

 冒険者ギルドから受注したもう1つの依頼、討伐依頼。指定された地で魔物を討伐し、討伐を証明するため体の一部を持ち帰る必要がある。採取依頼と同様に討伐数が増加することで報酬が上乗せされていく。

 ゴブリンの場合はそぎ落とした右耳が討伐証明証であるため持ち帰りが比較的容易で討伐数を稼ぎやすい。しかし連携に長ける場合があるため、集団を相手取る時は囲まれないように立ち回らなければならない。



「終わりました」

 息絶えた緑色のゴブリン達の前で手をはたき、こちらを振り返ったライカが微笑む。

 時は少し遡る。クロームをからかうのをほどほどにして、気配をたどりながら森を探索していると木々の間で動くゴブリンの集団を発見した。樹木の側で枝を使い屋根のようなものを組み立てているので、ここを住処にしようとしていたらしい。

 10数匹のゴブリンを一気に相手取るのは厳しいと思い少し様子を伺うつもりだったのだが、隣で一緒に様子を伺っていたライカが先陣を切ると言うので渋々承諾した。「速戦即決です」と言いライカは笑顔で突撃していった。

 いかずちの如く強襲してくる冒険者の出現に大混乱になるゴブリン達。

 武器を取る暇も無く首を折られるゴブリン、吹き飛ばされた先で木にぶつかり首が変な方向へ曲がるゴブリン、集団で飛びかかるもライカの魔法で黒焦げになり硬直して倒れるゴブリン。

 後方支援をするまでもなく終わってしまった。


「……どうかいたしましたかペンネ様?」

「えっ?……なんでもないよ。やっぱりライカは強いね」

 心配そうに顔をのぞき込んでくるのでそう告げると、嬉しそうな顔をするライカ。

 見るだけで満ち足りたと分かるその表情は普段の凜とした表情とのギャップもありとても可愛い。返り血で汚れた拳と彼女の後ろに広がる惨状さえなければもっとよかったのだが。

「ペンネ様、他の魔物が集まってくる前にここを離れましょう。私は耳を削ぎます」

「うんお願い。私はゴブリンを一箇所にまとめておくね」

 吹き飛ばされて木に激突し首が変な方向に曲がっているゴブリンへ向かう。

 肩に乗るクロームから小さく息を吐く音が聞こえた。

「……あの子、昔からこんな感じなの?」

「少なくとも小さい時は自分から先陣切って戦いに行く好戦的な性格ではなかったはずなんだけど」

「嘘でしょ」

「昔は倒して動かなくなった魔物ですら触れなかったのに……」

 今では特に臆することもなくナイフでゴブリンの耳を削いでおり、その後ろ姿は機嫌が良いようにすら見える。

「多分ライ爺様の教育の所為せい

「あぁ、あの爺さんの」


 ゴブリンの片足を引っ張り1つの場所へ集め終える。

 全部で15体、全てライカが耳を削いで袋にまとめてくれたので後は魔核を取り出すだけである。

「さてと。他の魔物が血の臭いで寄ってくる前にやりますか」

 全ての魔物には魔核があると言われている。ゴブリンの魔核のその多くは、親指の爪ほどの大きさであり取り出す手間の割には大した売却額にはならないが、魔筆の使用に魔核が不可欠なペンネにとってはいくらあっても困らない代物である。

 しかし今回は数が多い。その全てから手作業で魔核を取り出していては時間が掛かる。他の魔物に襲われる危険が高まるため今回は魔法を使い魔核を取り出す。

 取り出した親指の爪ほどの大きさの魔核に素早く《戦利》と書く。実際に書き込むには少々小さくゴツゴツとしているが、ペンネが書きたいと思えば難なく書くことができる。

 その魔核をゴブリンの山の上に投げ込むと魔核がうっすらと光を放ち粒となって山へ降り注ぐ。数秒後、1体のゴブリンの胸から魔核が勢いよく抜け出し、ペンネの足下へ転がってくる。他のゴブリンからも徐々に魔核が飛び出してくるので1つずつ拾い、最後の1個を拾うころには両手がいっぱいになっていた。

「うん、想像通り。数は15個で魔核も汚れなし、と」

 今回魔法を使う際に魔核に汚れが残らないように、体内から抜け出る時に血や肉片が残らないイメージをした。これまで魔法で取り出した魔核は水で洗い拭き取っていたが、今回のように数が多いとそれも時間がかかる。その手間を省くためのイメージだったが、無事成功したようだ。

 魔筆を見ると桃色の10の輝石――ペンネが心の中で『ゲージ』と呼んでいるそれは、10個中1個の輝きが失われている。先程魔力を補充し10ゲージに充電したばかりなので1ゲージ消費したことになる。この魔核を抜き取る魔法は今回のような少しイメージを加えた程度では1ゲージの消費で変わりないようだ。

 

 魔核を魔核入れにしている袋に入れて魔筆と一緒に魔法鞄へ入れる。

 あとは目の前に転がる魔核を抜かれたゴブリンを処理しなければならない。

 通常の魔物であれば皮や牙、骨といったものは武具や魔道具など様々な用途があるのだが、ゴブリンにはそれがない。そして肉は不味いらしく食用には向かない。

 しかしこのまま何もせずに死骸を放置してしまうと別の魔物がその肉を喰らいに集まってしまう。その食事会場にうっかり近づいてしまった冒険者が大怪我を負った事案を冒険者ギルドで教育されたことがある。

 そのため討伐した魔物はその死骸を何らかの方法で処理することが推奨されている。通常は焼却して処理する。

「ペンネ様」

 ライカに焼却をお願いしようとしたその時、ライカから声がかかる。

 肩に乗るクロームもほぼ同じタイミングで後方へ振り向いている。

 ライカがその鋭い視線を向ける方向を見れば、森が騒がしいのが分かる。こちらへ何かが走って向かってきている。

「この速度……ボアかな?」

「そのようですね。ペンネ様」

「うん。お願い」

 短い会話を交わし、ゴブリンの処理を自分で行うため再び魔筆と魔核を取り出す。《灰》と書いた魔核を投げ込めば、先程と同じように魔核の光に包まれたゴブリンが灰のように変色し崩れ去る。残りは8ゲージ。

 処理が完了したのを確認して振り返ると、茶色い猪ブロンズボアが視界に確認できた。すぐ側まで近づいている。

「今夜はお肉をいっぱい食べることができそうですね」

 そう言い放つライカの後ろ姿はやはりと言えばいいのかどこか楽しげな雰囲気を纏っていた。






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