012 【夢描く筆】と魔核
南の森を訪れた翌日。
市場にて軽めの朝食を摂り、街の北門を出て街道を少し進んだところにある森へ向かう。昨日冒険者ギルドで受注した薬草採取とゴブリン討伐の依頼をこなすためだ。
街道を暫く進んだのち西に逸れて草原に入る。
まだ朝の早い時間なためか周囲に人影は見えず、また魔物の気配も確認できない。街道から十分に離れた場所に魔法鞄から取り出した布を広げる。森へ入る前に休息を取りながら装備の状態を再確認する。
魔法鞄から魔筆【
尻軸から胴軸中程までにかけてあしらわれた10個の桃色の輝石。その1つが他の輝石と比べて輝きが失せて少し暗い色をしている。
親指の爪ほどの大きさの魔核を指で摘まみ魔筆の尻軸に押し当てると、尻軸の輝石が強く光り出す。同時に魔核が徐々に小さくなっていき、10秒もしない内に指先からなくなった。
先程の輝きが失せた石を確認するとすっかりその輝きを取り戻している。
10個全ての輝石が鮮やかである今は、魔筆の魔力が限界まで蓄えられている状態だ。
「『充電』ヨシ、と」
「……そういえばあんた、昨日は種にどんな魔法を掛けたの?」
ノビをして小さな体を解しながらその様子を見ていたクロームが口を開く。
「普通にお花が咲く魔法だよ。今頃あの丘一面に咲き乱れてるはず」
「丘一面ってあんた……」
「シィルフィちゃんが見たらきっとびっくりするだろうね」
半目になったクロームに微笑むと、隣に座っているライカから息が漏れる音が聞こえた。
【
魔核のような魔力の塊に、あるいは対象に直接書き込むことによってペンネのイメージを出力する。
あの時ペンネが思い浮かべたのはあの丘が花一面になるイメージ。文字通り『咲』き『乱』れるイメージだ。そのイメージを【
イメージを宿した種は異常な速度で発芽、生長、開花、結実して世代交代を繰り返すようになる。1晩で子孫を丘一面に行き渡らせ終え、今頃元の生長速度に戻っているはずだ。昔、森の中で同じ魔法を試しことがあるが、まるでそこだけ時間が加速したような異様な光景だった。なので夜中の間に生長するイメージにしておいた。
この魔法はペンネが好きな花の魔法――魔女アルトアートが見せてくれた魔法を模倣している。しかし、ペンネは魔女様と同じように一瞬で無から有を生み出すような花の魔法は使えない。
完全な再現はできないが、方法を考え試行錯誤を繰り返し似たような魔法を使えるようになった。魔力の塊である魔核と花の種、2つの魔法媒体を使用する方法だ。
魔法媒体を使用する方法は魔筆の魔力の使用量を抑えることに繋がる。使用量を抑えるのは、ペンネの魔法が魔筆ありきの魔法だからだ。
通常の魔法使いであれば食事や休憩といった方法で自然と魔力は回復していく。魔力を回復するポーションを使うという選択もある。ある程度のリスクや後遺症を承知で自身の魔力量を超えて魔法を使うこともできる。
だが自身の魔力を持たないペンネは、魔筆の魔力が尽きればこの世界の一般人、それ以下のか弱い少女になる。いざと言うときに魔筆の魔力切れを起こさないように魔法媒体を組み合わせて使用量を抑える今の運用方法を編み出した。
ただこの運用方法、魔筆の魔力消費は確かに抑えられるのだが魔核を二重に喰らうという欠点がある。魔筆の魔力補充と魔法媒体、2つの用途で魔核を使うからだ。
魔核を魔法媒体とすると一度に複数の物体に効力を及ぼすことができるが、それ以外では対象に直接書き込む場合と効果は変わらない。しかし直接書き込んだ場合は魔筆の魔力の消費量が増えてしまう。最終的な魔核の使用量は同数なのだが、魔力の消費が激しい分、直接書き込む方法は魔筆の魔力の補給回数が倍以上になる。
戦闘中に隙を晒してはいけない、とライ爺との修行中に厳しく言われたため結果的に今の運用方法に落ち着いた。
ちなみに魔女様のような一瞬で無から有を生み出すような花の魔法をペンネが再現できないのは根本的に魔力量が足りないからだ。一瞬で花を咲かすイメージをすることはできても魔法媒体一切なし、時間差なしの瞬間詠唱発現は魔筆の魔力を全部使用したとしても実現不可だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――
よければフォロー&応援をお願いします。創作の励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます