第9章『とおちゃあととおちゃあ』

第46話

〜ニチジョウ ドミー家〜


12月某日、ルルはケイトに招かれてドミーの家、リビングにいた。

お茶を飲んで一息。

「シャフマからここまで遠いのに、わざわざありがとうね」

「いいのよ〜。私、ケイトさんとお話するのが好きだもの。それで、お話って何?気になるわ〜」

「実は、ルルに最初に話そうと思っていて誰にも言っていないのだけど……」

ケイトが椅子を引いてルルの前に座る。


「2人目が出来たのよ」




〜ストワード中央駅〜


「……」

1月。シャフマには四季がないが、それでも肌寒い季節だ。

(ケイトさん、嬉しそうだったわ〜)

トナに出会ったのも寒い季節だった。

(私もそろそろよね〜。異種間だと難しいって聞いたけど、アントナさんは頑張ってくれているし……)

トナはルルの妊娠をすごく喜ぶだろう。だからこそ今の状況がもどかしい。

「おいおい、大丈夫かよ?」

声を掛けられてハッとする。黒い短髪に褐色肌の男性だ。

「あら〜?」

「電車待ってたんじゃねぇの?今行ったぜ」

「あらあら〜そうだったのね〜。ぼーっとしてたわ〜」

「……ん?あんた、どっかで会ったことあんな?あれっ?どこでだっけ?」

男が紫の瞳をパチパチさせる。

「あら〜?もしかして……あなた……」




〜ニチジョウ ドミー家〜


「うあー!やられたぜ!」

「きゃははっ!とおちゃあよわーい!ざあーこ!」

「酷いなー。それでも世界を救うヒーローかよ」

「よし、今度は俺が相手だぜ!来い!ルカ!」

「どおーん!!」

「ぐあーっ!」

ルカの怪獣ごっこに付き合うドミーとトナ。2人の腰はもう限界。

「痛い……本当に痛い!!いっ……!う゛おっ」

「ガチの声出てるなー……」

ルカがトナに乗っかり、尻を叩く。

「おじちゃあ、おちりおおきいよお。ちゃんとうんどーちなちゃいっ!」

「う……」

「ははは!もっと言ってやれルカ!そのままじゃあオッサン体型まっしぐらだってな!」


「ただいまだぜえ」

玄関が開き、クオスが学校から帰ってきた。

「あれっ、オッサンいるじゃねえかよお」

「あぁ、邪魔してるぜ。そろそろ帰るがね」

「クオス!おかえり。ご飯あるぜー」

ドミーが立ち上がり、食卓に料理を並べる。

「またカレーかよお」

「兄ちゃんのカレー好きだって言ってただろ」

「レパートリーが少ねえぜえ……」

「わあい!カレーたべまーちゅ!」

「いだっ!?」

ルカがトナの背中から降りる。容赦のない蹴り。

「トナ兄も食ってけよ。俺、料理上達したんだぜ?」

ドミーのドヤ顔。美味しそうな匂いに少し悩むが、首を横に振る。

「すまないが、今晩はルルが帰りにストワードで買い物をしてくるらしくてね。ご馳走が待っているのさ」

「そういうことなら仕方ないか。また来たときに作っておくぜ」

「楽しみにしているね」

トナが腰を擦りながら立ち上がる。

「ね、ね、ね!おじちゃあ!るかねえ!るかねえ!」

「あぁ、お兄ちゃんになるんだろう?」

「そうなのお!るかはあ、おにいちゃあでーちゅ!」

「今日だけで10回は聞いたがね」

「キャハハッ。ルカははやくお兄ちゃんになりたいんだぜえ」

「ケイトさんが妊娠したって聞いてすごく嬉しいさ。ルカもお兄ちゃんか……」

今日、ドミーの家に来たときに一番にルカに聞いたのだ。遂にお兄ちゃんになる!と。

「まだ性別は分からないがな。早く知りたいぜー」

そう言って箸とスプーンを並べるドミーを見る。

(口には出さないが、家事を率先してやっているね……)

ドミーの家を後にし、帰路に着く。吐く息が白い。辺りは暗くなっていた。

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砂時計の王子 3 まこちー @makoz0210

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