第41話

〜ニチジョウ〜


「クオス、大丈夫か?」

「大丈夫だぜえ。けどよお、ちょっと肩貸してほしい……」

「分かったぞ!よしっ」

クオスはベルラに掴まってゆっくりと歩く。

「かなり高くまで車で来れて良かったね。これでクオスも紅葉が見られるぜ」

トナとドミーが車から降りる。

「そうだなー。……まさか、来たいと言うとは思わなかったが」

「ん?」

「いや、クオスは目が……」

ドミーの目が泳ぐ。トナも「そうだったね」と頷いた。真っ暗な世界に生きていたら、紅葉なんて見たいとは言わないだろうが……。

「この前病院に運ばれて何か心境の変化でもあったんじゃないかい?」

「心境の変化か。そうかもなー」

ドミーの目に映るのは美しい紅葉の色だ。弟には見えない色。

「くおすとりゃ!みてみてえ!」

「なんだよお、ルカ」

「きれい!はっぱでーちゅ!」

「……そうかよお」

ルカの手が何かを握っている。そこまでは分かる。

「あげまーちゅ!」

「!」

葉を握らされた。その瞬間、輪郭が、色がハッキリと分かった。思わず俯く。

「っ……」

「ないてゆのお?」

「え、クオス!足が痛いのか!?それとも腕か!?怪我、治ってなかったか!?」

「違えぜえ」


「嬉しいだけだぜえ」


顔を上げる。今見えるようになったのは何色だろうか。同じ色の葉が一斉に色を持った。赤は知っていたから、黄か橙か。それとも他の色なのだろうか。

「ベルラ、あんたの髪に乗ってる葉の色を教えてくれよお」

「えっ、余の髪?」

「あー!べるちゃああたま!はっぱ!!きゃはっ!きゃははっ!」

「なっ……!る、ルカ!笑い過ぎだぞ!」

「きゃははっ!きゃはっ!」


「あれっ」

「どうしたんだ、ドミー」

「転んでない。クオス、最近一回も転んでないな」

「そういえばそうだね。今も山の中だが、真っ直ぐ歩けているし。本当に『変化』かもしれないね」



帰り道、ドミーはルカとベルラの寝息を聞きながら車を走らせる。トナは縛られて眠っている。もちろん、寝相が恐ろしいほどに悪いからだ。

「なあ、兄ちゃん」

「どうしたー?トイレならさっき行っただろ?」

「違えぜえ、ベルラじゃねえしよお。……紅葉、綺麗だったぜえ。ありがとう」

「……ははっ、当然だろー。こんな山奥まで来たんだからさ」

「うん」

「感動したか?」

「したぜえ」

「そうか。クオス、これから『は』……いっぱい良い景色見れるからな」

「!」

「あ、今度俺のライブに来てみるか?キラキラしてるぜー。うるさいくらいに」

「キャハハッ、さすがに刺激が強過ぎるぜえ」

「ケンカより、か?」

「んー、分かんねえぜえ。……あっ、兄ちゃん、そういえばその傷どうしたんだよお」

「傷?そんなのないだろー。変な事言うなよな」

「ほっぺたのとこにあるぜえ。昨日まで絆創膏してただろお?もう治りかけてるみてえだけどよお」

そんなに細かいところまで見えるようになったのか。自然と笑みが溢れる。

「俺ちゃんみてえに誰かとケンカしたのかよお。キャハハッ」

「そんなわけないだろー。ほらほら、子どもは大人しく寝てろよ?」

「キャハハッ」






〜数日後 美術部の大会当日〜


カンバスの前に椅子を置いて、座る。目の前には美しい景色。

川の色は青、紅葉は赤、それから……。

「この絵の具にアレと同じ色はねえなあ」

豪快に絵の具を混ぜる。

「クオストヤ、その色……」

隣に座っているホタルの声だ。

「ん?なんだよお。俺ちゃんの真似すんなよお、ホタル」

「しないわよ!……真っ黒にしないのね。珍しい」

「!……くくくっ、俺ちゃんもずっと同じ色は使わねえぜえ」


「俺ちゃんの世界はどんどん変化するからよお。同じ色ばっか使ってられねえだろお?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る