第38話

「何よそ見してやがる!」

アイトーグがクオスの上に覆い被さる。

「いってえ!反撃しろ!クオス!」

「どうやるか知らねえぜえ」

「お前なあ……!」

「でもよお、」


「あんたが近くにいたら、良く見えるぜえ」


赤は覚えた。相手の顔や制服についた血が見える。

「これが赤」

クオスが自分の口元についた血をなぞる。

「これが赤だぜえ、俺ちゃん」

(そして、)


(アレが青だろお。父ちゃあ)


まるで青の光を宿したランプだ。アイトーグの瞳は、体は。

「すっげえ純粋な色だぜえ。赤も青も」

助走をつけて殴る、蹴る、体当たりをする。

「舐めんじゃねぇ!」

自分よりも大きな相手に立ち向かう。楽しかった。


「……負けたぜえ」


「あぁ」


もう立ち上がることが出来ない。2人で空を見上げる。

「お前がいなかったら勝ってた……んだが、」

アイトーグは何度もクオスを庇っていた。

「……」

「だが、まあ。こんなにスッキリしなかったかもな」


「久々に全力出せたぜ」


(あ……)


まだ澄むのか、この色は。


「……うん、俺ちゃんも楽しかったぜえ。またやろうぜえ」

「バカ、もうやらねぇよ」

「ケンカやめんのかよお」

「お前とはな。足でまといには変わりねぇ」

「キャハハッ!じゃあもっと強くなるぜえ!」

「よせ。体格的に無理だ」

「俺ちゃんの父ちゃあは185センチで90キロあるぜえ。あ、兄ちゃあも」

「へっ!?」

「俺ちゃんの家系、20歳からでかくなんだよお」

「意味ねぇじゃねぇか。ケンカは今が勝負なのによ」

「キャハハッ!たしかにい!でもよお、楽しかったからまたやりてえぜえ!」

「……はぁ。足引っ張るなよ」

「キャハハッ!」




〜ストワード中央 ビル街〜


「おじちゃあ!」

「ルカ!」

駆けて来たルカを抱き締め、そのまま抱き上げる。

「るかのおかちかいまーちゅ!」

「あぁ、オジサンに任せろ。店ごと買ってやるからね」

「変なこと言うなよー。トナ兄」

ドミーは撮影帰りでラフな格好をしている。

「ストワードはもうかなり冷えるなー。ニチジョウの紅葉もギリギリかも」

「こおよお!こおよお!しまーちゅ!」

「ルカは紅葉が楽しみなんだねェ」

「はあい!」

トナは今から少しだけルカと買い物をするのだ。もう夕方だから紅葉を見に行くときに持っていくお菓子を買って、夕ご飯を一緒に食べて解散だが。

「ルカは毎日でかくなるね。ドミー」

「そうか?」

「やったあ!」

「あまりでかくならなくていいぜ。そういうのは俺とコイツで間に合ってるからね。あんたはかわいい路線で行こう」

「無理だと思うぜ。父さんでさえ今はあんな感じだしなー」

「……うっ」

10代の頃のラビーの写真を思い出す。今からは考えられないほどにかわいらしかったのだ。本当に。

「るか、くーる!くーるになりまーちゅ」

「クール系を目指しているのかい?」

「今戦隊に凝っててさ。ブルーが好きらしい」

「へえ、ああいうのってレッドが人気のイメージがあったがね」

「最近の戦隊はキャラがしっかり分かれててすごいぜ。去年のはピンクが男だったしな」

「え!?すごいなそれ。今そんなんなってるのかい!?」

「イメージカラーを縛らないっていう世間の動きを反映させてるのかもなー。ほんと、俺たちの頃の戦隊からは考えられないよな」

大陸統一のしばらく後、カラーテレビが登場したことでテレビ番組が生まれた。子ども向けに戦隊番組が始まったのはトナ、ドミーの子ども時代からだ。その頃から考えられないほどにいろいろ変わっているらしい。トナはあまり考えたくないと思った。年齢を感じるから……。

話をしながらデパートに入ると、見た事のある後ろ姿が。

「ん?ユセカラだ」

「ユセカラサンじゃないか」

「アントナさん、ドミニオさん、それにルカルニーくんも」

「買い物かい?」

「はい」

「それなにい?」

ルカがユセカラの持っている買い物かごを指差す。

「趣味の切り絵に使う道具です。ストワードのデパートにはシャフマで作られたものも並びますからね。品揃えが良いんですよ」

「あんた切り絵なんてやっていたかい?茶道や卓球をしているのは知っているが」

「ふふっ、いろいろなことに挑戦したいんですよ。大人になっても、自分の可能性を広げたいんです」

「すごいぜ、あんたは本当に出来た人だね」

「ありがとうございます。でも、私は……弟やドミーさんが羨ましくなることもありますよ」

「え?俺?」

「はい。歌を極めているドミーさん、小説を極めている弟……。一つのものに夢中になれるのは才能ですから」

そう言って柔らかく笑う。

「おや、しまった。夕ご飯までに帰らないといけません。リーシーさんが待っていますからね。それでは失礼します。……また」

「ああ、またなー。ユセカラ」

「リーシーサンによろしく頼むぜ」

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