第7章『反抗期はお早めに』

第36話

〜ストワード中央高校〜


「俺ちゃん、今日はパス」

「え?ちょっと待ちなさいよ!まだ筆も持ってないじゃない」

ホタルの声に振り返る。困り顔のクオス。

「なーんか描けねえ日だぜえ」

「クオストヤ……まさか、大会に出ないつもり?」

美術部の大会まであまり日がない。クオスは視線を落とす。

「私たち3年にとって、最後の大会でしょ?あなたが出なくてどうするのよ!」

「……俺ちゃん、描けねえ日は描けねえの。キャハッ」

明るく笑って見せる。そのまま廊下に出て逃げるように1階へ向かう。

「クオストヤ!……はぁ…………」


「私、おかしいわね。アイツがいない方が賞狙えるのに引き止めるだなんて」


(どうしちまったんだ?何故か筆が持てないぜえ。こんなこと一度もなかったのによお。……ん?)

ふと、窓から見えた裏庭が気になった。

「アレは……」


大柄な男子生徒が一人で座って缶ジュースを飲んでいる。長い金髪をハーフアップにして、ピンク色のインナーカラーを入れている男を、クオスはよく知っていた。

「隣のクラスの不良だぜえ。キャハハッ!」

絡んだら面白そうだ。今は一人のようだし、怖くは無い。何かされそうになったら自慢の逃げ足で逃げれば良いのだ。まずは様子を見てみよう。

裏庭に出る。隣に座る。特に何も言われない。

「……」

座高が高い。やはり全体的に大きい生徒だ。体の厚さも全く違う。

「そのジュース、美味いのかよお」

話しかけてみた。不良は目線だけクオスに移す。

「……特に」

「じゃあなんで飲んでんだよお」

「なんでもいいだろ」

「えー?俺ちゃんとお話するの嫌なのかよお」

ベタベタ絡む。

「話すことはねぇよ」

「あるぜえ?」

「……」

「俺ちゃん、不良に憧れてるんだぜえ。反抗期ってヤツ。やってみてえの」

「勝手にしろ」

「やり方わかんねえからよお、教えてくれよお」

更にベタベタ絡む。不良生徒はため息をついた。

「反抗期はしたくてするもんじゃねぇ。それに、俺は……」

「……」

「なんでもねぇ」

立ち上がり、その場から去ろうとする不良生徒。クオスは追いかける。

「あんた、名前なんだっけ?」

「名乗る必要ねぇだろ」

「えー?教えてくれよお」

「……俺は、……」





〜シャフマ トナの家〜


「あー……暇だねェ」

「良いことね〜。事件がないのは、素敵だわ〜」

「たしかにそうだが、ずっと家にいるのもいろいろとなまりそうじゃないかい?俺はもうあまり若くないからさ」

「そうね〜。アントナさんは若くないわね〜」

「いや同意して欲しいのはそっちじゃないんだが……。おっと、」

スマホが鳴る。ドミーからだ。

「ふあ……。どうしたんだい?」

『トナ兄、呑気に過ごしてるみたいじゃないか』

「カジノでの一件以降、大きな依頼がなくてね。小さいのはちょこちょこあったんだが」

『で、気づいたら11月ってわけだなー』

「そうだが……なんだい?嫌味を言うために電話したのかい?」

『いやいやまさか。トナ兄じゃあるまいし。……だが、残念ながら、依頼じゃない。ルカが紅葉を見たがっていてな。一緒に連れて行って欲しいんだが』

「すぐに行こう」

『行く気満々で助かるが、まだだぜー。ケイトが撮影で行けないからさ。結構ちゃんとおもり頼んじまうかも』

「構わないさ。ルカとドミーと俺、3人かい?」

『今のところはそうだなー。一応ジスラも誘っておくが、来るか分からないなー。急だし』

「ベルラとクオスはどうだい?あの2人、レジャー好きだろう?」

『ベルラはルカがいるって言えば来るかもしれないが、クオスは美術部の大会前だから分からないなー』

「へえ。大会か」

『今月末にでかい大会があって、それがクオスの最後の大会になる。大学でも美術専攻にするのか、その結果を見て決めるそうだぜ』

「なるほどね。それじゃあ専念させた方がいいだろう」

『ま、一応希望は聞いてみるさ。じゃあまた詳しいことは追って連絡する』

「了解だ。楽しみにしているぜ」

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