第32話

「大切なもの……?」


「まずはルーレットで賭けようぜ!」

問答無用で回るルーレット。トナはらしくもなく焦った表情を浮かべる。

「待ってくれ!一体何を賭けている!?」

「トナ兄、俺が出る」

「え、ジスラ?」

「俺はトナ兄より失うものは少ないだろう」

「そういう問題なのかい!?これ!」

ルーレットが止まる。

「残念!てめえらの負けだぜ!」

「……へっ?」

ジスラの目元を隠していた布が消える。なるほど。たしかに大切なものだ。

「ぬ……っ」

目を閉じて右袖の布を破る。器用な手つきで目元に巻く。

「あ、それは消えないんだ……」

「もちろん目元を隠す布だけを奪ったからな!他で代用してもいいぜ!」

「これって俺たちにメリットあるのかい?」

「最終的に勝ったら賭けたものを返して財布に入ってる金を100倍にしてやるぜ!ボスが!」

ただのゲームだからな!とニコニコするクルト。

「……分かった」

ジスラが頷く。

「分かったのかい!?あんた、大切なものをたくさん奪われるかもしれないんだぜ!?」

「要は勝てばいいんだろう」


「俺は負けん。俺は強い」


「……!……仕方ないね。俺も乗ろうか。どの道、今回の任務はここの調査だ。手ぶらでは帰れないぜ」


「……楽しくなってきたじゃねえか!」



ルーレットが回る。これはあまりにも不利な賭けである。クルトにも何が賭けられているかは分からないらしい。結果が出ないと分からないようだ。

「あ、俺の負けだな!」

「何か消えたかい?」

「ん?アレ見れば分かるぜ」

クルトが指した先には『今日のオヤツ表』が。スタッフの名前とオヤツのメニューが書いてある。

「今、今日の俺のオヤツが消えたぜ!」

「そんなものが?」

「そんなもんってなんだよ!すっげー楽しみにしてたの!」

そんなこんなで賭けは進んで行く。

「なんだか面白いね、これ」

トナが微笑む。

「だろっ!?カジノ来て良かったか!?カジノ好きか!?」

「あぁ」

「〜っ!だよな!俺もここが大好きだぜ!」

「魔法をこんな風に娯楽に使うのは良いアイディアかもしれないね」

「そうだな」

ジスラは既に左袖もなくなっているが。クルトは声もリアクションも大きい男だが、ゲーム自体はなんだか和やかに進行できている。

「……あ、負けだ。今日ついてねえな」

クルトがそう言った瞬間だった。彼の目が閉じる。

「……ん?クルトクン?どうした?」

トナが声をかけるが、起きる様子はない。

「おやおや、また賭けの最中に寝てしもうたなあ。お客さあ、ルーレットはおしまいや。今度はこっちやで」

声をかけてきたのは髪の短い、背の高い男だ。

「ここは店員交代制なんや。ルーレットの次はこれで遊ぼう。な?」

着物の内側から取り出したのはサイコロだ。

「さあ、丁か半か……あんちゃんたちから決めてええで」




〜地下室〜


「ボクは……眠っていたのか……」

「目が覚めたようね?」

「……!」

髪の長い女性がこちらに近づいてくる。そこで気づく、縛られて天井から吊り下げられていると。逃げる手段がない。

「むさ苦しい男かと思ったけど、かわいい女の子だったのね。雑な扱いを許してね?」

「まさか、このボクを傷つける気かい?」

腕に力を入れる。魔力器官、魔力回路は正常に動く。大丈夫だ。

「あなたの魔力……すごいわ……!ゾクゾクしちゃう!それで私を撃ち抜いてくれるのかしら?」

「お望みならば、天使ちゃん」

冷や汗が止まらない。誰が見ても不利な状況だ。それでも強がるのがこの女だ。父親の遺伝だろうか。

「でもダメ!私が独占しちゃいけないわよね!」

「……!?」

縄が蠢く。

「触手か!?!?ひっ!?」

「ボスのために、魔力補給しなきゃ!しばらく我慢してね!」

「まっ……!え!嫌ー!さすがに無理!ボクでも気持ち悪い!たすけてー!!!!!」

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