第26話

トナ、ジスラ、クオス、ベルラ、ロレシオが駆けつける。廊下には3人の女子生徒が。1人は腕を押さえて座り込んでいる。

「吸血鬼が出たか」

「きゅ、吸血鬼……本当に……」

「学校の怪談は本当だったのかよお。すげーぜえ」

ロレシオが座り込んでいる女子生徒の隣に駆け寄る。

「血を吸われたのー?」

「腕を噛まれただけ……。叫んだからすぐ離されたけど、あれは吸血鬼だったわ」


大きな翼、長いマント、真っ赤な瞳。


ベルラが目を泳がせる。

「吸血鬼は逃げたのかい?どこに行った?」

トナが聞くと、女子生徒の1人が廊下のずっと奥を指差す。

「うわあ、真っ暗だぜえ。……ベルラ、大丈夫かよお」

「こ、怖くないぞ!余は、ドキドキしているだけ……!」

「無理についてくる必要はない」

「お兄ちゃん!……吸血鬼は魔界から来ているはずだぞ。魔界のこと、知りたいんだぞ……」

口ではそう言うが、足は震えている。

「仕方ないなー。よいしょっと」

「うわわ!?」

ロレシオがベルラをおんぶした。

「しっかり捕まっててねー。アントナ先生、ベルラは僕が連れて行きますから大丈夫ですよー」

「……あぁ、助かるぜ」

「良い友を持ったな、ベルラ」

ベルラは何か言いたかったようだが、黙ってロレシオの背に体を預けた。

「さっき美術室にいた女子生徒の悲鳴かと思ったが、違う生徒だったね」

「ホタルのことかよお。たしかに別のヤツだったよなあ」

「放送はあったし、もう帰ってるんじゃないですかー?」

「そうだといいがね……」

嫌な予感がする。この先で襲われているかもしれない。早足になる。

「まだ走るなよ。体力を削られないようにしなくちゃだ」



「襲われるのは女子生徒ばっかりだぜえ。吸血鬼ってのは女子の血が好きなのかあ?」

「若い娘が好きというのはあるかもしれないね。なんとなくだが、俺やジスラよりも血が美味そうじゃないかい?」

「イメージとしてだろお?」

「実際には男の方が血の濃度は高いと言われている。赤血球の多さが違う」

ジスラが言うと、トナが苦笑する。

「理屈としてはそうなのかもしれないがね、効率が良いからって吸血鬼が野郎の腕に吸い付くのは地獄絵図だろう」

「地獄絵図でもよお、血を吸わないと生きていけねえんだったら無差別に襲いそうだよなあ」

「学校に潜んで生徒の血を吸うのは悪質だ。対象を選んでいるのなら尚更な」

「……んー……」

クオスが立ち止まる。どうした?とジスラ。

「ん?俺ちゃん、囮になろうかなあって思ってよお」

「え、クオス、何で!?」

震えた声で叫んだのはベルラだ。

「だってよお、こうやって探してるの丸出しで歩いてても会えねえだろお。話聞いてる感じ、吸血鬼は一人っぽいしよお」

「良い案かもしれないね。暗闇に潜んで突然血を吸うのが好きな吸血鬼なら、大勢で探していても姿は見せないだろう」

「トナ兄、本気!?危ないんだぞ……!」

「……」

ロレシオは黙っている。

「それに、吸血鬼は若い女子が好きなんだとしたらよお。トナ兄やジスラ兄、あとロレシオだっけ?でけえ男だらけで歩いていても襲っては来ねえぜえ?」

「女装をするのか」

ジスラが言うと、クオスがニヤリと笑った。

「スカート履けば俺ちゃんでも女子に見えるんじゃねえ?」

トナがジスラを横目で見る。

「……俺たちがいる。命の保証はするさ」

「トナ兄はともかくよお、ジスラ兄は最強の保安官だし……頼りになるぜえ!」

「……いや、余がやるんだぞ」

「ベルラ……!?」

「ロレシオを巻き込んだのは余だし、余の方がクオスよりも身長が低いし、体も薄い……。スカートを履けば女子生徒に見えるんだぞ」

ロレシオが絶句している。クオスはキャハキャハ笑った。

「キャハハッ!見てみてえかもお、ベルラの女装!」

「あ、あまり大きな声で言うと吸血鬼にバレるんだぞ!」

「くくくっ。分かった。その作戦で行こうか。ジスラ」

「ああ。問題無い」

「きっまりー!あ、でもよお。一応俺ちゃんもベルラと別の教室で女装して待機してるぜえ。吸血鬼2人いるかもだしなあ」

「複数いても関係無い。俺が守る」

「ヒューッ!かっけえぜえ!お兄ちゃん大好きだぜえ!」

「よ、余のお兄ちゃんだぞ……!クオスのではなーい!」



と、いうことで。ベルラとクオスがそれぞれ別の教室で待機することになった。女子生徒の制服は保健室にあった予備のものを使った。

「クオスは髪型が特徴的だからね、解いた方がいい。ベルラはそのままでいいだろう」

「キャハハッ、なんか文化祭みてえで楽しいぜえ!」

「こ、これ、スースーするんだぞ……」

「2人とも足が男過ぎるね。暗闇とは言え、なるべく内股で座るようにした方がバレないだろう。……よし、ベルラはここに座っていてくれ」

ベルラが教室の後ろの方の席に座る。

「吸血鬼が来たら、後ろに追い詰めるんだ。俺たちは小型カメラで教室を監視しているから、すぐにそっちに向かうからね。分かったかい?2人とも」

「オッケーだぜえ」

「わ、分かったんだぞ」


「ベルラ、本当に大丈夫なのー?」

「大丈夫だぞ!余は魔界への手掛かりを得たいんだぞ。ここで怖がっていたら、魔界なんて行けないんだぞ。だって魔界は、」

「ここよりずっと、恐ろしい場所。だもんねー」

「そうだぞ!……だから、余は負けないんだぞ!人間に悪さをする吸血鬼くらい簡単に倒すんだぞ!」

「分かったよー。うん、尊重するー」

「……ありがとう、ロレシオ」



トナたちが教室から出る。ベルラは震える足を抑え、深呼吸をした。

(余は怖くないんだぞ!魔界を見つけて……)


(お兄ちゃんを……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る