第25話

「わ、私っ!この絵完成させなきゃなので……!ま、また明日、会って欲しいです……!」

黒髪の女子生徒が大きなキャンバスを抱えて美術室の隣の部屋に走る。

「あっちも美術室なのかい?」

「違えぜえ。つーか、あの絵はもう完成してるはずだぜえ」

「ふーん……?」

トナは首を傾げた。


「クオストヤ!」

廊下で声がした。クオスがニヤニヤしている。

「また余のロッカーに入ってた絵の具を勝手に持って行ったな!?許さないぞ!」

勢い良くドアを開けたのはベルラだ。

「あーあ、すぐバレちまったぜえ。キャハハッ」

「もー!自分で買って来い!余のを使うな!」

「足りなくなんだよお」

「尚更!用意しろ!……あ!アントナ……先生。ここにいたのか」

「あぁ。ブカツというのを見学していたのさ。ベルラは何かブカツに入っているのかい?」

「余は入っていないぞ。入るか入らないかは自由だからな」

「ふぅん。ブカツは自由なのかい」

「そう!だからこそ……放課後に現れるという『吸血鬼』を調べられるぞ!!!」


「……吸血鬼」


「そう!吸血鬼だぞ!」

トナの呟きにも過剰に反応をするベルラ。

「余は絶対に吸血鬼の正体を突き止めたいぞ!絶対!絶対に!」

「あんたがそんなに燃えているなんて気づかなかったよ。何か理由があるのかい?」

「それはもちろん、」

「魔界の証明だよねー」

柔らかい声が聞こえた。ジスラが真っ赤になる。

「あ。僕はロレシオでーす」

「ジスラのクラスメイトだね」

「はーい。覚えていてくれて嬉しいなー」

「それで、魔界の証明というのは何だい?」

「俺ちゃんも聞きてえぜえ?」

「な、何でもいいだろ!?ロレシオ、それは余たちだけの秘密……」


「魔界があるのか?」


今度は低い声。声の主はすぐに分かった。トナの眉が上がる。

「ジスラ。どこに行っていたんだい?くくくっ、ずっと姿を見なかったが」

「外の警備をしていた」

「言ってくれよ……探しちまった。もうアイマスクを取ってもいい時間だろう。外せよ」

「……」

ジスラは昼間は赤色のアイマスクをしている。これでも物にぶつかることなく移動できるというのだから不思議な男だ。

「……外さないのかい?」

「まだ日は落ちていない。今日の日の入りは18時11分だ」

時計を見る一同。17時58分。

「あと13分経ったら外そう」

「細かいねェ。相変わらず」

ジスラはこういうところが面白い。トナが口元を緩める。

「もうこんな時間なのかよお。新学期始まってすぐ通常の授業時間になるの、勘弁して欲しいぜえ」

「余もそう思う」

「僕もー」

「日の入りの時間になったら暗くなるぜ。生徒は帰った方がいいんじゃないかい?ほら、吸血鬼のこともあるし」

「だからこそいるんですよー。魔界の証明のためにー。ねー?ベルラ」

「だからやめ……!あることが証明できてから皆に発表するんだぞ」

何やら小声で話している2人。

「俺は吸血鬼なんて全然怖くねえけどよお。ベルラはすっげえビビりだしよお、帰った方がいいぜえ」

「余は怖くないぞ!」

「キャハハッ!嘘だぜえ。昔一緒にキャンプ行ったとき、一人でおしっこ行けねえからって……」

「何年前の話だ!!!」

「えー、その話初めて聞きましたー。詳しく聞きたいなー」

「ロレシオ!」

頬を膨らませて怒るベルラ。

「キャハハッ!キャハハッ!」


「クオスは随分ご機嫌だねェ」

「そうだな。歳の近い従兄弟がいて良かった。……ベルラにとっても良い刺激だろう」

「うん。真面目な感想アリガトウ。……ジスラ、そろそろ本格的に日が落ちてくる。日の入りの時間までに皆を校舎外に出した方がいい」

「校長もそう言っていた。18時ピッタリに放送を入れるから帰らせてくれと」

「おっ、そうだったのかい。じゃあ、」

18時のチャイム。普段なら部活はあと1時間から2時間続くのだが、今日は違う。

『皆さん、今日は部活動は18時までです。物騒な事件がありますから、早めに帰りましょう』

校長の声。クオスが「マジかよおー」と項垂れる。

「これから絵を描こうと思ってたのによお」

「え、余も?余も帰らなきゃダメなのか!?」

「僕たちもでしょー」

「ロレシオ!まだ、魔界の証明が……」

「……危ないよー。そんなことに拘って、変な事件に巻き込まれたらどうするのー?」

ロレシオがベルラの手を引いた、そのときだった。

「きゃああっ!!!!!」

女子生徒の悲鳴が廊下に響いたのだ。トナが立ち上がり、ジスラが警戒態勢になる。

「出たか」

「あんたたちはここから出るなよ。ここは大人に任せてくれ」

「余も行くぞ!吸血鬼に会いたいぞ。魔界の証明のために、」


「ベルラ」


ジスラがベルラの行く手を阻むように前に出た。

「吸血鬼は必ず捕まえる」

「本当!?」

「ああ」

「ちょっ……ジスラ、あんた……」

「俺も魔界のことが気になるからな」


「あるんだろう?魔界は本当に」


「「「…………」」」

兄ジスラ、弟ベルラ以外の皆は黙って固まってしまった。

「あるぞ!余は、あると信じているぞ……!」

「ならば兄も魔界を信じよう」

「へへっ、お兄ちゃん……」


「…………トナ兄」

「なんだい?」

「ジスラ兄ってよお、魔族……だよなあ?」

「……俺もそうだと記憶しているがね」

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