第5章『吸血鬼の怪談』
第23話
〜ストワード中央高校〜
「闇夜に輝く、真っ赤な瞳」
「大きな翼に長いマント」
「真っ黒な黒髪を束ねた、細身の男」
「その正体は……!」
「まさに吸血鬼!!!」
「……と、いうわけだぞ!」
「そうなんだねー」
「反応が薄いぞ!余の下僕(しもべ)ならば、もっとこう……いろいろ興味を持て!」
「いろいろって言われてもー。僕、お腹空いちゃった」
「ぐぬぬぬ……」
「一緒にお弁当食べようよー。昼休み終わっちゃうよー?」
「うっ。余もお腹は空いたんだぞ……」
「ベルラのお弁当すごいねー!自分で作ったのー?」
「あ、これはお兄ちゃんが作ったんだぞ!」
「お兄ちゃんって保安官の?」
「うん!お兄ちゃんはすごいんだぞ」
ベルラが眉を下げてにへらと笑う。
「ロレシオはきょうだいがいっぱいいるんだったな!」
「まあねー。6人きょうだいだよー」
「ろ、6人!すごいんだぞ」
ジスラとロレシオはストワード中央高校に通う高校2年生の男子だ。
性格は正反対だが、1年生のときから仲が良い。
ストワード中央高校はその名の通りストワードの中央にある規模の大きい高校で、10年ほどしか歴史がない。それ以前はトルーズク大陸には高等教育の制度がなく、15歳以降は働くか、働きながら個人団体問わず学者が運営している研究会に入って勉強をするしかなかった。もっとも、研究会にはいわゆる『学者』を志す人しか入れなかったが。
高等教育の制度を確立させるのはアントワーヌの悲願であったが、これが想定外に難航した。学者たちは自分たちの専売特許を手放したくなかったのだ。政府が高等教育をすると言えば、学者たちは学者の卵から勉強料を取ることができなくなる。何年もかけ、リク大統領が「学者も高校で働き、収入を得ることができるようにする」ことを約束したことでやっと高等教育が開始したのだった。
約束は15年前に取り付けられ、それから5年間で校舎や従業員を用意し、つい10年前……ストワード中央高校に生徒を集めることが出来た。
教師も生徒も手探りで『高校』をつくっている。まだ始まったばかりなのだ。
「エゲル先生が大丈夫なのか気にならないか?」
「3日前に消えちゃったんだよねー」
「ここだけの話だぞ、耳を貸せ」
ロレシオがベルラに耳を寄せる。
「……エゲル先生は、吸血鬼に連れて行かれたんだぞ」
「……そうなんだねー」
「棒読み!余の推理は当たるんだぞ!」
「本当にいるのかなー。吸血鬼でしょー?」
「ふっふっふ……。部活帰りの生徒の中には、吸血鬼を見たと証言している人もいるんだぞ。余の妄想では無いぞ!」
「でも魔界は妄想でしょー?」
「ま、魔界は本当にあるんだぞ!」
「そっかそっかー」
〜校長室〜
「なるほど。近頃、生徒の間で『吸血鬼』の噂が流れているから、どうにかして欲しい。と」
今回の依頼はかなりふわふわしているね。と苦笑する。
「しかし、ただの噂でしょう?俺……私の通っていたシャフマ地区の中学校でも、そういう類の噂はよくありましたよ。なあ、ジスラ」
「あったな」
ジスラはお茶を飲み干し、添えてあった紅茶のクッキーをバリバリ食べている。
「生徒が少々過激な噂を面白がって作るのは、昔からのことだ。しかし、今回は実害が出ていてな」
立派な髭を生やした校長は渋い顔だ。
「3日前に新任教師が行方不明になっている。夜に学校から出た形跡がないまま、消えている」
「……ほう?」
トナが目を細める。
「吸血鬼の噂が出始めたのも3日前だ。何か関係があるのかもしれない、と思ってな」
「それは関係があるだろう」
ジスラが低い声で言う。
「ジスラ、まだ決まったわけじゃないぜ。だが、まあ……調べる価値はありそうだね」
「よろしく頼む」
「それで、潜入方法だが……これを着てくれ」
「ん?」
潜入のための、変装?
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