第4章『夏休みは楽園で』

第19話

「行ってきまーす!」


玄関で靴を履く。真っ白なスニーカーに黄色の紐。

「父さんが駅まで送ってくかー?」

父の声に黒髪の青年が振り返る。

「いいよ、父さん。僕はもう中学生だから」

一人で電車に乗れるよ。そう言って、玄関ドアを開ける。

「じゃあ、気をつけてな」

「うん!」

ルカルニー・エル・レアンドロ。彼は13歳。ニチジョウの中学校に通っている。今日から2泊3日の部活合宿だ。

「早いものね。あの子も13歳……」

「信じられないよなー。俺もすっかり老けちまったよ」

「良く言うわね!私の方が年上なのに」

ドミーがヘラヘラ笑う。

「10年なんてあっという間。だよな、トナ兄」


「……墓参り、行かないとだ」



「『夏休みは楽園で』……CM見たかよ?ルカ!」

「もちろん見たよ。僕、あのCM見てからさ、今日をすっごく楽しみにしてたんだから」

行きのバス内。隣の席、同じ部活の友人にスマホを見せる。

「CM見ない日の方が珍しいよ。ここ1週間くらい、シャフッターでも皆呟いてるし」

「え、お前シャフッター派だっけ」

「あ。ニチッターも入れてるけど……。父さんがシャフマ語の勉強になるからこっちも使えって言ってきてさ」

「へー、うわ!ほんとにシャフマ語だ。ニチジョウ駅に書いてあるやつ!」

「ラルフはシャフマから来たんじゃなかったっけ」

「シャフマじゃねェよ?」

「じゃあどこ?」

ルカの友人、ラルフはニヤリと笑う。


「……ずーっと東」


「え、それって。今から行くとこ……」




「……あれっ」

「おはよう、ルカ」

気づくと、見知らぬ部屋の布団に仰向けになっていた。飛び起きる。

「ラルフ?僕、寝てた?」

「ラクエン駅に着いた途端に倒れちまったんだよ」

「ラクエン駅? ……あ、そっか。僕、ラルフの故郷にラルフと2人で遊びに行くって決めたんだった」

「そうそう!俺の故郷を案内してやるって言っただろぉ?」

「そうだった! でも、記憶が飛んでるっていうかさ、結構曖昧?だよ」

首を傾げる。

「熱中症で倒れたからな、記憶が曖昧なのは当然だろ」

「うーん、たしかにそれなら……?」

「まあ細けェことはいいじゃねェか。俺の家まで来れたし!……今日暑すぎるしよ、アイス食おうぜ」


ラルフが言うと、奥の通路から短い黒髪の少年が顔を出した。

「氷菓、必須」

「うわあ!?だ、誰!?」

「あ、紹介がまだだったな。コイツはシェイ。俺の親友だぜ!」

「親友、否定……する」

「シェイってラルフがよく教室で話してた人?」

「そうそう!シェイはクール系男子だぜ!俺らお同い年で、ラクエンの中学校に行ってて……いててて!」

「必要のないこと、話すな」

「わー!悪ぃ!いてて!足踏むなよー……ルカも俺の友達だから、シェイのこと教えてやっただけだってば」

「……えっと、シェイ。よろしく。僕はルカルニー。皆からはルカって呼ばれてるよ」

「……シェイ。13歳。以上」

それだけ言って、冷凍庫からアイスを出す。ルカとラルフに渡し、自分は床に座った。

「僕、嫌われちゃったかな……」

「俺にも常にああいう態度だから気にすんな。あ、俺ソーダ味がいい」

「じゃあ僕のと交換しよう!そっち美味しそう」



「ラルフはここが故郷って言ってたけど、ここからニチ中まで通ってるわけじゃないよね?」

「ああ。ニチ中の近くに住んでるからな。母さんも父さんもそこにいる。でも2人はラクエン出身で、休みの日はたまにここに連れて来てくれるんだ」

アイスを食べながら話をする2人。

「じゃあラクエンのことは何でも知ってるんだ?すごいなあ」

「まあな!……ルカの家もニチ中の近くだろ?」

「うん!父さんと母さんと住んでるよ。それからたまにおじちゃんが来るなあ」

「おじちゃん?」

「あ、ラルフにはまだ話してなかったっけ。ええと、おじちゃんはね、父さんの弟!」

「ふーん?親戚が多いのか?」

「結構いるかも。みんな良い人だよ」

「……そうか」

「でも、」

「ん?」

「……僕は顔を覚えてないんだけど、僕が3歳のときに事故でしんじゃった親戚もいるんだ」

「……」

「その人も僕の面倒を見てくれてたらしいんだけどさ、覚えてないんだよね……」

「事故か。残念だな」

「本当に。会えるなら会ってみたいよ……」

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