第18話
インターホンが鳴る。ラビーが応答すると、向こうから低い声が聞こえた。
「リュウガが来たよ」
「あー……俺が出よう」
トナが歩き、玄関のドアを開ける。
神妙な顔をしたリュウガが立っていた。
「どうしたんだい?」
「巾着袋を返しに来た。我の持っていたものと入れ替わっておったようじゃ。おぬし、中は……」
「さっき見たぜ」
「っ……!」
リュウガの顔色が一変する。
「石化の魔法がかかってたよ。あれはリュウガがやったの?」
ラビーが首を傾げて聞く。説明をしろという圧を感じる。
「ちがっ……我ではない!!!」
「じゃあ誰だい?危険な魔法がかかっているものをあんたに渡したのは」
「僕が白魔法が得意だったから良かったけど、魔法の呪文の勉強をしてない人の手に渡ってたら恐ろしいことが起きてたよね?」
青と黄色の瞳に射抜かれるように見つめられ、さすがにたじろぐリュウガ。
「……すまん。動揺した」
「動揺?」
ラビーの声に頷いて続ける。
「我の持っておった……いや、ある人物から渡された巾着袋と同じものをおぬしたちが持っておったことに驚き、見比べたんじゃ。それで、違う方を渡してしまった」
リュウガが懐から取り出したのは黄色の巾着袋。たしかにルカの持っているものと同じ色だ。しかし、裏面に『ルカルニー』と記名がある。
「るかの!!!」
「すまんのう。こっちがおぬしのじゃった。そちらと交換してもらえんかのう」
「はあい!いいでえす!」
屈んでルカに巾着袋を渡す。ルカも小さな手で受け取り、名前が書いていない方の巾着袋をリュウガに渡す。
「ありがとおござます!」
「……ありがとう」
リュウガの口元が緩む。
「るかの!なまえかいた!してる!」
「良かったなあ、ルカ」
開けて中身を確認するルカを反射的に止めかけるトナとラビー。中には小銭が3枚。きゃはきゃは笑うルカ。ほっと胸を撫で下ろす2人。
「しかし、あの魔法はなんだったんだい?リュウガサン、しっかり説明……してくれよ?」
「リュウガ。もちろん説明してくれるよね?」
「……」
「「リュウガ(サン)!!!」」
2人の声が重なる。渋い顔をして黙り込むリュウガ。
「それにしても、巾着袋が同じだなんて面白い偶然だぜえ」
「たしかになかなかないよなー。ルカ、それどこで買ったか覚えてるか?」
「キャハハッ。兄ちゃん、記憶力落ちてんなあ」
「結構前の話なんだよ。たしか3ヶ月くらい前に……ええとー、ルカは覚えてるかー?」
「んーとね、んー!よーちえでかったしたあ」
「幼稚園?あ!思い出した。バザーだ。そこで手作りの巾着袋が売られてたんだよなー」
「えー、それで被るって奇跡に近くねえ?」
「だよなー。…………あ!ユセカラから買ったよな、それ!」
「ぎんいろのおにいちゃあ!めがねだよお」
「よく覚えてるな」
「るかだっこもらいまちたあ!」
「はははっ、ルカは自分に甘い人のことはよーく覚えんだよなあ」
「ほんとほんと。あんまり会えない父さんの顔も絶対忘れないし。んで、ユセカラが『ヨンギュンが使わなくなった布を再利用して巾着袋にしてるから幼稚園で売らせてもらいたい』って持ってきたって言っててさ」
「へえ、じゃあそれはヨンギュンの作品なのかよお!」
「……まさか」
クオスとドミーの会話を聞いていたトナがリュウガの顔を覗き込む。
「それはヨンギュンサンから預かったものかい?」
「え、そうなの!?リュウガ!」
無言。しかし、これは肯定に決まっている。トナがニヤリと口角を上げた。
「くくくっ、思わぬ偶然が重なったぜ。ラッキー!」
「ラッキーとはなんじゃ」
「いやこっちの話さ。で、リュウガサン。それはヨンギュンサンから預かった大切なものなんだね?」
「はあ……そうじゃ。石化魔法をかけたのもあやつじゃ。勝手に見られぬようにな」
トナが満足そうに笑う。
「ふふっ、依頼達成だぜ!ドミー!!」
「ヨンギュンの大切なものが見つかったのか!?今!?」
ルカの工作の手伝いをしていたドミーが驚いた声を上げる。
「ああ。今丁度見つかった。……ということで、ルカの夏休みゲット!!!」
ガッツポーズをする。
「リュウガが持ってたんだね……」
「ラビー、悪いがこれは渡せぬぞ」
「……それは、リーシーやユセカラの前でも言える?」
「もちろんじゃ。これは、本当に『迷ったとき』に見るものじゃ」
リュウガの目は真っ直ぐだ。
「今は必要ない。誰にも、のう」
「リュウガ……」
「我が預かっておこう。いつか、必要になるときが来たら」
「うん。リーシーとユセカラにはそう伝えておくよ」
「ふん、必要になるときなど来ないじゃろうと思っておったが……」
リュウガがルカをチラリと見る。
「分からんのう。走って転ぶこともある」
「我はまだまだ生きる。おぬしたちよりもずっと、長く生きる」
「……だから、これは我が持っておく。それでいいじゃろう」
ラビーが目を細めて笑う。
「リュウガは頑固だねえ。昔から変わらないんだから。でも、意見があるならちゃんと言わないとダメだよ。リーシーやユセカラはすごく心配してたんだからね」
「うぬう……」
「りゅうのおじちゃあ!あしょぼ!」
ルカが色紙を持って走ってきた。リュウガの手を引く。
「なんじゃ。我と遊びたいのか」
「はあい!あしょびまーちゅ!」
「仕方ないのう。相手をしてやろう」
「……変わらない、か」
「うん、そういう頑固さもあってもいいかもねェ」
ルカの工作を手伝いながら、トナは一人、そう呟いた。
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