第17話

〜ドミーの家〜


「ただいまでーちゅ!!」

「野菜と画材買ってきたぜえ」

ルカとクオスが玄関を開けて入る。鍵は最新型。ワンタッチのタイプだからルカでも開けられる。

「おかえり2人とも!あれっ、トナ兄は?」

「後ろでバテてる。すぐ来るぜえ」

「クオス!久し振り!ええと、元気……?」

「この通り元気だぜえ。画材買ってきた」

「いろいろ……順調なの?」

「父ちゃん気にし過ぎだぜえ。ケータイでいつも連絡してんだろお?」

「ごめん……。会ってないと、不安になっちゃってね」

苦笑するラビーの顔を見て、何も言えなくなるクオス。

「歳をとると子どもたちが心配なんだよ。僕は若い頃あんな感じだったから……」

「……あっそお」

クオスは素っ気なく返事をし、自室に向かう。

「反抗期かねェ」

トナも帰ってきた。リビングに荷物を下ろす。

「難しい年頃なんだよ。あまり構わず、放っておいてやってくれよ」

「分かっているさドミー。ラビーオジサン、クオスは俺にもルカにも普通に接していたぜ。あとリュウガサンにも、ね」





トナとドミーがラビーと夕飯の準備をする。

「リュウガに会ったんだね」

ラビーが野菜を洗いながら言う。

「あぁ。あの人はいつまでも元気だねェ」

「あははっ、たしかに。リュウガは500歳まで生きるらしいよ」

「そんなに!?あ、そっか。竜族って特殊なんだっけな」

キノコを切る係はドミーだ。

「そんなに生きられたら楽しそう!って、昔は思ってたんだけどさ……」

ラビーの手が止まる。

「きっと、長く生きれば生きるほど、たくさんの別れがあるんだよね」


「リュウガはたくさんの別れを経験してるから、あんなに強いのかもねえ……」


30年前、ラビーやザックたちを何度も救ったのはリュウガだった。

「ヨンギュンもそうだったのかな……」

ヨンギュンも魔族だ。リュウガほど長くはなくても、人間の3倍は生きる。いや、生きた。

「たくさんの別れ、か。でもさ、それだけ出会いもあったってことだよな」

「出会いかあ……。思い出を大切にしているのも、強さの秘密なのかなあ」

ラビーが柔らかく笑った。



「いただきまちゅ!」

ルカが手を合わせる。

「あぁ、イタダキマスだ」

「2人とも手伝ってくれてありがとねえ。おかげで早く終わったよ」

「普段一緒に暮らしてないからなー。親孝行ってヤツだ」

「調子が良いことを言うじゃないか、ドミー。兄孝行もしてくれよ……」

首を傾げ、青い瞳で見つめる。ドミーは苦い顔をして視線を逸らした。

「トナ兄は従兄弟だろ。っていうか、ルカに癒されて幸せそうにしてるし、これ以上何望んでるんだ?」

「くくくっ、からかっただけさ」

「大陸のスターにも色仕掛けする肝の座り方してるのは尊敬するよ。全く……」


「あ、夕飯出来てたのかよお」

自室からリビングに来たのはクオスだ。部屋着に着替えている。

「今呼びに行こうと思って……」

「いいぜえ別に」

ラビーの言葉を遮って、トナの隣に座る。

「いただきます……うまっ!これ、オジサンが作ったのかよお」

「兄ちゃんも作りましたー。あと父さんも」

「ふーん……」

パクパク食べている。さすが10代男子。食欲が旺盛だ。

「……あ、そうだ。普通に忘れてたんだけどよお、コレ」

クオスがトナに小さな電子機器のようなものを渡す。

「おっと、俺も忘れていた。魔力量測定器だね。ありがとう」

受け取り、礼を言う。

「大きなヒントになりそうだな。それ」

「もちろん。今まで手がかりが全くないからね。これは失態だぜ」

「そう言ってるわりには余裕そうだよなー。なんか必勝法でも?」

「……残念だが、今回ばかりは本当にないね。困ったね」

と、いうことでこれが頼りさ。と測定器の電源を入れる。


『ビーッ!ビーッ!!ビーッ!!!』

大音量が鳴り響く。皆が驚いて目を白黒させる。

「誰か何かに魔法をかけたかい?」

「いや……思い当たるものは一切ないな」

「僕も……」

「一体に何に反応してんだあ?」

まさか。トナはルカの持ち物が入った棚に目をつけ、引き出しを開けた。

「これじゃないかい?」

黄色の巾着袋。先程外出したときにルカが持って行ったものだ。測定器に近づけると、更に音が大きくなった。

「メーターが振り切れてるぜ……。すごい魔力量だ」

電源を切る。これ以上稼働させているのは危険だろう。

「この巾着袋に誰か魔法をかけた覚えは?」

首を横に振る3人。紙を切って遊んでいるルカにも一応聞いてみよう。屈んでルカに袋を見せる。

「ルカ、これなんだが……」

「あー!るかの!さわるだめ!」

「っ、おっと」

ルカがトナの手から袋を奪う。と、中身が飛び出してしまった。

「ううーっ……こ、こわれたあ……」

「大丈夫。壊れてはいないはずだ。中身が飛び出しただけさ」

中身が小銭では無い。

「あれえ?入ってるのは小銭じゃないぜえ」

「白い紙?そんなの入れたっけな」

クオスとドミーも屈んで紙を見つめる。

「「……」」

「2人とも、どうした?……?」

反応がない。そのままの姿勢で固まってしまった。呼吸もしていないように見える。

「なっ……!?る、ルカ、見るな!」

「ぐすっ……な、なあに?」

「俺の後ろにいてくれ。どうやらヤバい代物らしい」

ルカを自分の影に隠し、紙から距離を取る。

(これを落としたとき。リュウガサンに会ったな。何か細工をされたのかもしれない。いや、リュウガサンも黄色い巾着袋を持っていて入れ替わったのか……!?何にしても、この状況……マズい)

「アントナ、ルカの手を握ってて」

ラビーが冷静に紙を拾い、巾着袋にしまう。

「だ、大丈夫かい!?」

「大丈夫だよお。じっと見つめなければ、影響を受けることはないからね」

柔らかく笑う。瞬間、ドミーとクオスが前のめりに倒れた。

「いってえー!なんだよお!?」

「いてて。ん?あれっ?俺、何してたんだっけな」

「ちょっと滲みるけど我慢してね」

「「わっ!?!?」」

ラビーが回復魔法の呪文を唱えた。2人の体が白く光る。

「何が起きたんだあ?」

「うーん。よく分からないな」

「2人とも、石化しかけてたんだよ。……強い魔法がかかっていたってことだよね、アントナ」

「あぁ。ルカが無事で良かったが……。どうしてそれに魔法がかかっているんだろうね」

「あー!るかの!」

「ルカ、これは今触ったらダメだ。危ないからね」

「……あれえ?ちがうよお。るかのちがあう」

「……違うのかい?」

「うん!!!るかのはあ、おなまえかいてありまーちゅ!」

表と裏面を見るが、たしかに名前が書いていない。顔を見合わせるラビーとアントナ。

「これは……」

「うん。リュウガサンと入れ替わったね」

「ね、ね、ね。るかのふくろどこお?」

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