第14話

185センチを軽く超える、身長も体格も並とはいえない男二人がニチジョウの街を歩く。

「さっき撮影が終わったんだ。今日は午前中で上がって良くてさ。昼からラーメン食えるなんて最高だよな!」

ラーメン店に迷わず入るドミー。

「……え、これ俺も食べる流れ?」

「あ、牛丼の方が良かった?向かいにあるからそっち行く?」

「いや、そういうことじゃあないんだが……あんたの奢りかい?」

「経費で落ちないの?」

「ソテに申請しておこう。スミマセン、ラーメン、ニコ……いや、フタツ」

「2個でも通じるぜー。あ、味はトンコツで」

「……ニチジョウ語はなんでこう複雑なのかね」

「俺に言われてもな。あっ、お冷ありがとうございまーす」

「ニチジョウに来るといつも思うが、ここは同じような系統の飲食店が近過ぎないかい?潰れないか心配になる」

すぐ近くに別のラーメン店があったし、向かいの道には牛丼、カツ丼、天丼。

「それだけ食の需要があるんだよ。ちなみにさっき見たラーメン店は味噌が美味くて、ここは豚骨が美味い」

「シャフマにはそんな食の種類はないぜ」

「あれっ、なんかそれどっかで聞いたことある」

ヘラヘラ笑うドミーの前にラーメンが置かれる。トナの前にも同じものが置かれた。

「すごいにおいだ……」

「嫌いじゃないだろ?」

「もちろんさァ!イタダキマス!」

スープを一口……含んだところで理性が飛ぶ。ドミーと何かを話しながら食べたはずだが、気づいたときにはラーメンはなくなっていた。

「ご馳走様です!トナ兄、ソテくんによろしく!」

「取引先との食事ってことにしておくよ」

「はははっ、ソテくんと俺は血が繋がってるのにな」

「親戚の中でも遠い部類だがね」

「……あっ、そろそろルカの迎えの時間だ。最近早帰りでな。幼稚園、夏休み前は早くなるんだと。今日は俺が迎えに行けるなー」

「ルカの夏休みか!楽しみだねェ」

「この間見たテレビでキャンプを特集しててな。行きたいと駄々を捏ねてる。あと花火とかき氷と……」

「よし、全部やろう」

「まだ言い終わってない!!……まあ、助かるよ。俺もバケーション取れるか分からないしな」

「忙しいみたいだねェ」

二人が立ち上がってお会計を済ませる。ラーメン屋のテレビからもドミーのミュージックビデオが繰り返し流れていた。

「トナ兄も幼稚園行くのかよ……」

「ダメかい?」

「いやダメじゃないっていうかむしろ助かるけどさ。ルカ、最近変な形の木の棒大量とか紙コップをひたすら繋げた2メートルくらいある作品持って帰るって言うし……荷物持ちはいた方が楽っていうか」

「じゃあいいじゃないか」

「あんまり目立たないでくれよー。トナ兄、無駄にでかいから子ども泣かせそう」

「あんただって体でかいし意味のわからない色のサングラスかけてるじゃないか」

「これはそこのド〇キに行ったときにルカがこれつけて!って言ってきたからつけてんの!……ってかかっこよくない?」

「……そうかもね」

「え、ダサい?言って!正直に!」




幼稚園に着く。たくさんの子どもが遊びながら親を待っている。

「きゃはっ!きゃははっ!」

ルカの声だ。同じ色の帽子を被った子と一緒に工作遊びをしている。

「また工作してる。ルカは立体物をつくるのが大好きなんだ」

「あんたの家に大量に飾ってあるよな」

「とにかくでかいものをつくりたがるから、ちょっと邪魔なんだけどな……でも、好きなものがあるのは良い事だよな。……ルカ!!」

「あ!とおちゃあ、きたあ」

父親であるドミーが部屋の外に来たと気づいて立ち上がり、駆けてくる。ドミーが頭を撫でると高い声で笑う。

「いい子にしてたかい?」

「おじちゃあいるう。なんで?」

指を咥えてきょとんとするルカ。「ルカに会いたくてね」とウィンクしてやると、「そうらんだあ」と他人事のように流された。

「ルカくんのお父さん、テレビ見ましたよ!」

「ははは……ありがとうございます」

「とおちゃあのてーび、いっぱいおどりしてたあ。るかおどりするできるよお」

ルカが両腕をあげて、左右に揺れて踊る。幼稚園の先生は「すっごく上手ですよね!」と手を叩いて笑っている。ドミーも嬉しそうに頷く。その後ろでかわいさにやられて倒れそうになるトナ。

「とおちゃあのてーび、かえってみるう」

「そうだな。帰ろう、ルカ。ありがとうございました。……トナ兄、行くぞ」

「……!あ、あぁ」

放心していた。危ない危ない。


「……今の方誰?」

「ルカくんのお父さんの御親戚ですって。お顔がシャフマ人っぽかったわね」

「ルカくんが大人になったらああいう男前になりそうじゃない?」

「たしかに!横顔がそっくりだったもの!」



しばらく歩いて、駅に着く。

「やだあ!おじちゃあいっしょいるのー!」

「やだやだって……あー、困ったな」

「奥サンがいるだろう?俺の家にルカが来るのは歓迎だが、ドミーの家に突然上がり込むのは悪いよなァ」

「いや、嫁は1週間出張でストワードに出てるからいいんだが。実は……その間の家事をしに、父さんが来てるんだ」

「え、ラビーオジサンが!?」

「今日の朝から来てる。ヨンギュンさんのことがあったから寂しいのもあると思うけどさー」

「あの人に会うの久しぶりだな」

「孫を独り占めできるって言ってたけど?」

「……ルカ、今からでも双子になれないかい?」

「いいよお!きゃはっ!きゃははっ!」

意味が分からないのに承諾してくれる。ありがとうルカ。

「無茶言うなよ。そういうわけだから今日は父さんにもルカの世話させてやってくれよ」

「あー、独り占めしたかったぜ」

「おじちゃあ、るかのおうちくるう?」

「来る来るゥ!」

「やったあ!とおちゃあかえっていいよお」

「いや俺の家なんだが……」

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