第11話

「レウォ、私は」

ホウオウがレウォに近づく。

「君を辞めさせようなどとは思っていない」

「いいんです。俺に聞かれたくないことをトナに依頼したことが分かったときから、覚悟はしてましたから」

「違う!たしかに今まで全ての仕事はレウォに一度話していたが……」


「今回だけはどうしても君には言えなかったから」


「俺が知ったら意味の無いことだったんですよね?そんなの、俺が辞めるように仕向ける以外の何があるんですか!?」


珍しく感情が顕になっている。

「だって、ホウオウ様とは仕事以外の話なんてしたこと無かったんだから……!」


「んっふふふ」


トナが口元を手で覆い、笑い声を隠す。


「何か間違っているとでも?」


「あんたの理屈は正しいね。だが、ホウオウサマとあんたは仕事以外の話をしなかったからこそ今回の依頼があったんだぜ?」

「ど、どういう意味……」

「完全にプライベートの話というわけさ。真面目なあんたのことだ。ホウオウサマからプライベートの提案をされても、仕事だと受け取ってしまうだろう。ホウオウサマが直接あんたに言えなかったのは、それを仕事だと思って欲しくなかったからなのさ」

レウォが嘴を開けて驚く。

「えっ!?ということは」

「そうだ!私は君に仕事と思わずに、番を見つけて欲しかった!」

「!?!?!?」

もちろんレウォにとっては衝撃の事実である。尾羽がぴょこんと跳ねる。

「仕事の話とは最もかけ離れている依頼だろう?くくくっ」

レウォが人間体になった。しかし、起き上がる気配は無い。

「……お、俺は、本来の姿で服従のポーズをしてまで……」

頬が、耳が真っ赤になっている。あれはレウォ流の服従ポーズだったらしい。

「俺の勘違いでした……お許しください、ホウオウ様……」

消え入りそうな声。トナは噴き出しそうになるのを必死で抑えている。

「問題ない。扉は後で共に直そう!」

「ああっ……やはりお優しい……」



トナはその後、タイミングを見計らってホウオウに少女のことを耳打ちした。

「本当か!?」

と、人間体だというのに翼……両腕を上下に振って喜んでいた。

「ありがとう。安心した!」

「まあ、これからも見守ってやってくださいをあまり無理強いしてやるなよ?」

「もちろん分かっている!私は、レウォが自由に生きていることが嬉しい!」

「ほう?」

「……レウォは、私と出会ってから私中心の生活を強いられている気がしていた。これからもずっと、そうなるのかと思うと、私以外の者と関係を持てないと思うと……それは哀しいことだろう!」


「だから、君の報告が嬉しい!ありがとう!」


ホウオウがレウォに報酬を手渡す。

「これは約束の紙幣だ!」

「おお、ありがとう」

「それと……」

ホウオウが自分の机の引き出しの中から、大きな羽を取り出した。

「……これも渡す」

「これは……白鷺の魔族の羽?」

「そう思うだろう!だが、違う!これは私の羽だ!」

「ん?だが、真っ白じゃないか」

「ふふっ……前に一度だけ真っ白な羽が生えてきたことがあって……そのときにレウォが抜いてくれた羽だ」

ホウオウの羽には必ず色がついている。だが、これだけはついていなかったのだ。それをレウォが発見し、抜いてくれたのだという。

「……普段の虹色の羽の方が価値はあるだろう!だが!私はこの羽には二番目の思い入れがある!!」


「これには、私個人の思い出が詰まっているからね!!!」


「一番目じゃないところも含めて価値かい?」


「……あぁ」


ホウオウはその大きな瞳を細め、愛おしげに笑った。




トナを見送ったホウオウは、扉の修繕を終えて大きなベッドに横になった。

枕の下に手を入れて、大きな羽を取り出す。

「……」

それは真っ黒な羽。レウォのものと同じ大きさ、同じ色のもの。だが、これも白い羽と同じく自分の翼を構成するために生えてきたものだ。


―ホウオウ様!すみません、俺の羽がついてしまったようです。


―あれっ?これ、ホウオウ様の翼にくっついてる。いや、他の羽と同じように生えてきてますよ!?


―お体は大丈夫ですか!?こんな色の羽が生えるなんて、病気かも……!


―どこか悪いに違いない!早く病院に行きましょう!はやく!!


―俺の背中に乗せますから……!


「あのときも、今日のように扉があったら蹴破っていそうな勢いだった」


体に異常はなかった。真っ黒な羽も真っ白な羽も、ごく稀に生えるものだったのだ。

「レウォの早とちり、私は嫌いでは無い!」

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