第10話

その後も毎日レウォの後をこっそり尾行したが、仕事後の水浴びで必ず少女と一緒に話しているところを見た。

(レウォサンとあの少女が番になるかは分からないが)

(今はそのくらいの関係が丁度いいだろう。俺が無理やり繋ぎ合わせることでもない)

(ホウオウサマもきっと納得するだろう)

ホウオウの依頼はレウォの番の相手を見つけることだったが、既にレウォは人間の少女と共にいたのだ。

(よし、明日で1週間だね。これを報告して、今回の依頼はおわりにするか。くくくっ、依頼人が大物だと報酬が楽しみで良いねェ)

「何してるのかな?」

「おっ!?」

すぐ後ろにレウォがいた。人間体になっている。水浴びを終えて、少女と離れたようだ。

「最近誰かに尾行されてると思ったら、あんただったんだね」

「偵察さ」

「……そんなに、ホウオウ様は俺のことを気にしてる、か」

「あんたのことを一番に考えてくれているのさ。良い人じゃないか」

「ホウオウ様は優しいよな」

「とても優しい人だね。あ、俺は今日で依頼は終わりでね。もうあんたをつけまわしたりはしないから安心してくれ」

「それなら良かった」

ということで俺は帰るぜ、とその場から去るトナ。

「……はぁ」

レウォのため息。

「そうか、じゃあやっぱり……」




次の日、ホウオウの城。

「ホウオウサマ、今回の依頼の報告をしに来ました」

「!!! どうなった!?」

変化していない。人間の姿でオレンジ色の瞳を輝かせ、トナの報告を待つ。

「レウォサンには……」


「ちょっと待ったァー!!!」

部屋の扉を蹴破る音がして、トナとホウオウが固まる。

大きな真っ黒いカラスが胸で呼吸をしていた。レウォだ。

「ど、どうした!?ソクジュに何かトラブルでも……」

ホウオウの声が震えている。何かトラウマがあるのだろう。

(まさか……30年前のシャフマ神災害の再来でも!?)

あのとき、最も被害を受けたのはソクジュだった。ホウオウもレウォも、トラウマになっているに違いない。

「私にできることならば、なんだって……!」

ホウオウが変化する。虹色の翼をバサバサさせている。

「違うんです、ホウオウ様」

レウォはカラスの姿のまま、ホウオウにゆっくりと近づいた。

「ソクジュの危機のような大きな問題ではありません」

「だが扉を蹴破って乱入するほどの問題ということに変わりは無い!」

ホウオウが声を張り上げる。

「レウォ、君ほど真面目で冷静な魔族がわざわざ変化して物を壊してまで私に伝えたいこととは何だ!!!」


「……ホウオウ様、聞いてくれるんですか?」


「もちろんだ!」

トナも固唾を飲んで見守る。偵察中、いつだってレウォは仕事に忠実な男だった。少女の前でも穏やかに過ごしていた。こんな暴力行為に出るような理由は絶対にあるはずだ。


「俺は、まだホウオウ様のお傍にいたいです!!!」


「「?」」


「ホウオウ様は俺を辞めさせるつもりですよね!?」


「ホウオウ様の身の回りの世話をしなくていいって、そう伝えるつもりだったんですよね!?」


「俺はまだ辞めたくないです!いや、しぬまでずっとお傍にいたいです!」


「仕事が出来ないと思わせていたなら謝ります!だから……!」


「これからも、俺を使ってください!」


レウォがひっくり返り、お腹を天井に向けた。もちろん、大きなカラスの姿のままである。

「え……?」

「これはどういうことだ?」

「いや俺にもサッパリ……というか、ホウオウサマが何か言った雰囲気じゃないか?これ」

「覚えがない……」

顔を見合せて困惑する二人の目の前で、大きなカラスは黙って仰向けになり続けていた。

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