第2章『鴉に嫁入り』

第6話

~ソクジュ~


「着いたよ。よく寝てたな」

「ん……」

トナが伸びをする。レウォの頭に腕が当たる。悶える声。

「あ、すまない」

「ぐ……。いたた……」

「降りるぜ。ほら、荷物持って」

「あんたなあ……少し思ってたが、意外と失礼なところあるよ」

「ん?」

笑顔で首を傾げて降り口に向かうトナ。ため息をついて追うレウォ。

大きな門。最近改装されたらしく、色が新しい。

「前にも来たことはあるが……本当にすごいところだねェ。ソクジュは」

「ま、まあね。ホウオウ様がいるから」

「ふふふ、そうだったぜ。ホウオウサマに会いに行かなくちゃだ」

「ホウオウ様には失礼がないようにしてくれよ」

「くくっ、善処しようか」

楽しそうに喉奥で笑う。大丈夫だろうか。

「あのでかい城だねェ。土産を持ってきた。これを渡そうか」

「大丈夫なやつだろうね!?待って!俺が確認するから!」





「私が鳳凰だ!!!美しい!鳳凰!!!」

バサバサッ!虹色の羽が落ちる。トナはそれを這いつくばってかき集める。

「ちょ、やめろ!ホウオウ様の前だ!」

「私は構わない!美しい羽は皆のためにある!」

「それにしてもでかい鳥だねェ」

「でかい……鳥!?」

ホウオウの動きが止まる。

「神々しいでかい鳥ってところかね」

「神々しい!!!む?だが、でかい鳥?」

バグっているらしい。面白くなってきた。奥歯を噛んで破顔を抑えるトナをオロオロ見るレウォ。

「で、あんたからの依頼を受けるためにここに来たんだが……。説明してもらおうか」

「あ、そうだった。私の依頼を聞いてくれ!!!アントナよ!!!」

「うん。そう言ってるぜ」

「や、やめ……」

ホウオウにここまでズイズイ行く人間は珍しいのだろう。レウォが焦っている。

「では、レウォ!!!」

「は、はい?」

「奥の部屋に案内せよ!!!」

「え!」

「2人で話したい!これは極秘の依頼だ!!!」

「っ、わ、分かりました……」



〜ホウオウの部屋〜


特大サイズの鳥の胸が白く光り、段々と人間の姿になっていく。

(ホウオウサマの変化をこんなに近くで見られるとはねェ)

光栄だ、と目を細める。

魔族が人間の姿になるときは、まずは内臓の一つである魔力放出器官が光る。次にゆっくりと人間の姿になるのだ。通常、魔族は変化を時間をかけて行う。

狩りや戦闘など急を要するときは違うのかもしれないが。

「私がホウオウ……」

「あぁ。好青年といった見た目だね」

「まだ言い終わっていないっ」

白い短髪、虹色のメッシュが入っているのは魔族の羽の名残だろう。魔族は人間体になったときに必ず元の姿の名残が出るものだ。

ホウオウは魔族の姿よりも地味な印象だったが、それでも溌剌とした雰囲気が特別な人物、といった感じだった。

「ホウオウサマ、俺は何をすれば?」

「レウォに番を与えよ!!!」


「え……?」


ホウオウは得意げに腕を組んでいる。

「あのカラスも年頃だ。番が欲しい頃だ」

「……なるほど」

「分かってくれるか!」

「相当難しいと思うがね」

「えっ!?」

「そういうのはお互いの合意がないと続かないものだぜ。ホウオウサマにお見合いさせられたからーなんて、すぐに別れちまう」

「だから君に依頼を。私が言ったことは内密に頼む!」

「あー、そうか。そういうこと……」

ホウオウが直々にお見合いしろ!と言えば、レウォは従うだろうが、それではただの仕事だ。

ホウオウの依頼は、レウォに自然に番を与えてやりたいということだった。

「分かった。引き受けようか」

「おお!ありがとう!」

大きな手で握手をする。

「だが、レウォサンのことが好きな女性から探さなきゃいけないな。そしてその女性にレウォサンが恋をしなければならない。うーん、難易度は高いね」

「レウォのことが好きな女性か!」

「あぁ。あんたも探しておいてくれ」

ホウオウが大きく頷いた。





部屋を出ると、レウォが待っていた。

「中の会話、聞こえちまったかい?」

「全く。俺はただの見張りをしてただけだよ」

「ふーん、そうかい。じゃあ俺は早速あんたともお話をしようかね」

前屈みになり、レウォを覗き込む。身長は5センチしか変わらないというのに。やっぱり嫌味なやつだと顔を顰める。


「ホウオウサマと良いお話をしてきたぜ。もちろんあんたのことだ」

「旅行を中止するくらいには良いお話なんだろう?はっ、楽しみだよ」

怒っているらしい。レウォの紺の瞳がギラついている。

「……早く教え、」

「俺の口から言ったら意味がないから言わない!」

上体を後ろに反らしてニヤッと笑う。つんのめって倒れそうになるレウォ。

「自分で気づくことが大切ってわけだね。俺はあくまでサポートの役さ。こういう依頼は多いから慣れている。気長に待つさ」

「は!?自分で気づく!?せ、せめて何かヒントをくれ!」

「もちろんヒントを出すのは俺の仕事さ。……うーんそうだねェ……。ホウオウサマから距離を置いてみたら良いかもねェ」

「え」

「猶予は1週間だ。それまでにあんたが変わらなかったら、依頼失敗ということで俺の報酬も0になる。……ということで、俺の金とホウオウサマの気持ちのために頑張ってくれよ、レウォサン」

そう言い残し、手をヒラヒラさせて去った。

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