第3話
すぐにでも依頼人の元に駆けつけたいところだが、一応寄っておきたい場所がある。そこは大統領の家……実家からほど近い、ストワード中央の路地裏に入口がある、ひっそりとした事務所だ。
重いドアを開けて、中にいるはずの人物に声をかける。
「戻ったぜ。ソテ」
返事はない。
「ソテ!……あー……」
床が見えない。本で埋まっている。
「生きてるかい?」
こうなっているともう仕方がない。手で掻き分け、足で踏み、本の山から銀の髪を探す。
「前の生存確認は一週間前だったかね。報告はスマホでしたし、そのときは返事がきたから……死後一週間ってところか」
まだミイラにはなっていないはずだが……と本の山に上半身を突っ込む。
「ソテ、仕事だぜ」
まだ返事がない。
「一週間もすれば駅前本屋の店頭商品は入れ替わっているだろうなァ……」
聞こえる声量で独り言。
「あ、さっき通ってきたときに店頭を見たが、新しい漫画本が入荷したと書いてあった気がするな」
本の山が動く。ニヤリと上がる、トナの口角。
「……トナ」
「なんだい?ソテ」
「何の本か見てきてくれないか?」
「片付けが済んだらね」
「手伝ってくれるか?」
「んー……いいだろう。あんたには世話になってるから、今回は特別サービスだ」
本の山から現れた白い腕を掴み、力いっぱい引く。
「はぁ……終わった……」
「本買ってきたぜ」
「キタッ!!!え、あの作者の新刊だっ!よく覚えてたな!?」
「うん。まぁこれでも探偵で食っているからねェ」
「都合良し屋は探偵じゃない。……は?特装版は?」
「ないぜ」
ソテがトナの襟を掴む。
「特装版と通常版揃えるのが好きって何回言えば分かるんだよ!」
「売り切れていた。残念だ」
「気持ちのこもってない『残念』だな!」
「ソテがもう少し早く片付けを終わらせれば、間に合ったかもしれないという意味の『残念』だが?」
「ぐ……」
「まぁいいじゃないか。気を落とすなよ」
「食えない男だな、お前は」
睨まれたトナは喉奥で笑う。
「ありがとう。褒め言葉として受け取っておくさ」
「褒めてない」
事務所の机で作業をする。
「次はどこで仕事だ?」
「んー?ソクジュ」
パソコンのキーボードを叩く振りをしているトナの横で、パソコンを使いこなしているソテ。
「ソクジュは、ええと……聖地があった気がするな」
「本物の聖地はあるぜ。ホウオウの城」
「あ!思い出した!ご当地美少女キャラクター『羽ばたけホウオウちゃん!』の出身地だ!キーホルダーと缶バッチと限定グッズあるだけ買えよ」
「それ許可してるのかい?ホウオウ神は」
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