第35話 似つかわしくない闇

「俺はここではユウと呼ばれてる。不動家の三男だ」


「あら、ではこの家の息子ってことね。私は桜子さくらこ

「オレは桜輔おうすけだ」


「お前ら、立派な名前があったんだな」

臆することなく名乗る二人に幽玄は感心してしまった。

そして誰もギャングツインズとしか知らなかったが、立派な名前が付いていたのである。


「で、なんでお前らがウチに居るんだ」


感心している場合ではなく、幽玄は本題を突きつける。


「ちょっと……散歩よっ! そう散歩っ!!」

「そ……そうだっ! 地域パトロールってやつだっ!」


「へーその割にはしょげてウロウロしていたらしいが」

ニヤリと笑い、幽玄はその嘘を否定する。


双子は──言葉を失った。


「散歩だろ? それ喰ったらさっさとパトロールとかいうものへ行くなり、家へ帰るなりしろ」

畳みかける様に、幽玄はそれ以上何も言うことは無いと、踵を返す。


「……仕方ないじゃない……あのクソ兄が帰ってきてるんだから……」


「──……!?」

その呟きは、桜子からなのか桜輔からなのか、分からない程の小さなものだったが、殺気の様な呪の様な禍々しい何かを含んでいた。


とても幼児が発するものではない。

それは深く深くに存在する闇のようなものでもあった。


幽玄がそれに勘づいて眉をひそめる。


この程度の闇など日常茶飯事で、別段真新しくもない。

それ以上の闇の淵を幽玄は知っている。


それを一般人、それも幼児が発していることに違和感だったのだ。

またこの双子の兄というのは、斑雪の兄でもある。


知るだけでもクソな男だという認識が、何か引っかかった。

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