第18話 慣れた場所を行く

予定を考えながら慣れた路地を歩き、行き交う人を交わしていく。


こんな繁華街の路地裏に、真面目そうな学生が学ランで歩いていること自体滑稽であった。

しかし、組のシマでは大抵は幽玄の事情を知っている。

この学生に絡む命知らずは、ほとんどいなかった。


たまに客引きに捕まると「幽玄さん、今日はどうです?」「たまには寄って行ってよぉ~♡」等と声を掛けられるのを「またな」と軽くあしらう。


そして進んでいく小汚い路地裏の一角に、のラブホテル〝フライハイ〟は存在していた。

そのネーミングは突っ込まない。

誰も組長の付けた名前に、意義だと唱えることはできない。


ホテル自体が古いため、幽玄の物心付いた時にはその名前だった。

幽玄には興味がない為、放置である。

長男であるヤリ手経営マンの兄、白夜びゃくやは「今の世の中にそぐわない」と改名を検討しているが、未だに親父である組長を説き伏せることはできなかった。


「そのうち、白兄に乗っ取られ別なものになるんだろうけどな」

そんな事を幽玄も期待している。

兎にも角にも組長のセンスは、昭和の遺物であった。



ラブホに着いて、裏口の扉を開けた時に扉の向こうに人がいることに気付かず思い切りぶつかってしまう。

「っつ……いっ……たい」

「あ……わりぃ」

何気に幽玄は軽く声を掛ける。


そして顔面を打ったらしい従業員の女は、その場で顔を押さえていた。

「いえ、すみません」

謝罪するも相当痛かったのであろう。涙目になっている。


幽玄は「大丈夫か」と声を掛け……唖然とする。


「大丈夫です……──ってあれ、不動くん!?」

清掃員はオバハンだと思い疑っていなかったのだが、涙目なのは斑雪だった。


「なんでお前こんなところに居るんだよ!」

「え、あーちょっとバイトというか……なんというか」

バイトが禁止されている高校ではない。許可制なのだが、場所が問題なのだ。


清掃員スタイルで裏口ににいる時点で言い逃れは難しい。

見られたという事は、下手したら学校で処罰対象になってしまう危険が生まれた瞬間であった。


「って、なんで不動くんが裏口から……?」

斑雪は鼻の頭を擦りながら生まれた疑問をぶつける。

「え、あ……うー」

そこで初めて幽玄も、ここで出会った拙さに気付きどもった。


「そうだよっ、知り合いのオッサンに言われて忘れ物届けに来たんだよっ! お使いだ!」

ラブホに何のお使いなのか、斑雪には疑問しか湧かない。

ちょうどそんな問答していると店長も出くわし、幽玄は慌てて目で合図する。


「オッサン、忘れ物持ってきたぞ」

そう言うと察した店長が「あぁ、さんきゅーな」と言い、別室へ案内しようとする。

そして斑雪には「サボってないで仕事しろ」と指摘し、急いで下がらせた。

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